レビュー

「お金とアート」と聞くと、水と油のような関係を思い浮かべはしないだろうか。美を探求する芸術家がお金について考えることは「汚い」という感覚を抱く人もいるかもしれない。

しかし、本書の著者らは、ビジネスにとってもアートにとっても、社会的な価値を確立するためには「お金を稼ぐ」という発想が欠かせないのだと指摘する。
本書は公認会計士の田中靖浩氏と東京画廊オーナーの山本豊津氏の対談である。会計とアートの世界は遠く離れているように思える。しかし、両氏の対談からは、お金とアートは切り離して考えることができないこと、そして会計の世界とアートの世界には驚くほどの共通点があることが浮き彫りになってくる。たとえば、オランダでの簿記の普及は、結果的に市民ブルジョアによる絵画の購入を引き起こしている。もしも市民ブルジョアが生まれなければ、彼らが絵画に興味を示さなければ、フェルメールは画家にならなかったかもしれないと考えられるのだ。
また、株式市場の仕組みと、アートが売買されるプライマリー、セカンダリーのマーケットにも類似点が見られる。
ビジネスでもアートでも、作り手がいくらものづくりに情熱を注いで労力をかけたところで、第三者がその価値を認めなければ価格がつかず、社会と接点を持つことはない。普段はアートに縁遠いという方であっても、本書で紹介されているような「お金」という切り口からアートを見れば、その見方が変わるかもしれない。古今東西のトリビアが満載の本書から、美術を見る目を養ってみてはいかがだろうか。

本書の要点

・資本主義を支えるグローバルな文明ともいうべき会計システムは、イタリアにアラビア数字がもたらされたことをきっかけに発展し、オランダへと渡る。そのことがオランダ美術の発展に大きく貢献した。


・流通市場で株式の価格がいくら上下しようとも、会社の資本金は影響を受けない。これと同じように、アートが後からいくら値上がりしても、芸術家に入ってくるお金は変わらないという構図がある。
・アートは第三者がその価値を認め、価格がついて、はじめて社会的な意味をまとう。これはビジネスにも共通する重要な視点である。



フライヤーでは、話題のビジネス・リベラルアーツの書籍を中心に毎日1冊、10分で読める要約を提供(年間365冊)しています。既に2,100タイトル以上の要約を公開中です。

exciteニュースでは、「要約」の前の「レビュー」部分を掲載しています。