レビュー

テクノロジーが発達し、現代はかつてないほど豊かな社会を迎えている。しかし、この社会全体に立ち込める暗雲のような不安は何だろうか。

どの世代でも、将来に不安を感じている人が多い。それは何もこの未曾有のパンデミックのせいばかりではない。
著者の一人で、不安定ワーカー(現時点は失業中)という高橋真矢氏は、この社会を覆う不安感が生じる理由を次のように語る。「人生そのものが大きな負債(借り)を返すために成り立っているから」。私たちは住宅ローンを組み、あるいは家賃を払い、将来のために自分の「生きる時間」を投資して生活している。しかし、今やその先に待っているのは、「年金すら返ってこないかもしれない未来」なのである。私たちは貨幣を人びとの手に取り戻し、新しいストーリーを生きなければならない。
資本主義経済から脱却する方法として、本書で提唱されるのが「脱労働社会」だ。AIが仕事の大半を担うことで、人間は労働から解放され、国から給付されるベーシックインカムで生活できるようになる。もちろん脱労働社会は労働を禁じる社会ではない。人間は賃金のための労働から解放されることで、より人間らしい活動をしながら生きていけるはずだ。経済学の論客2人と不安定ワーカーの提言は、幸福の本質を突いている。

「社会はこれから一体どうなっていくのか」という疑問を一度でも持ったことがあれば、ぜひ本書を手に取ってほしい。社会への漠然とした不安や違和感が可視化され、日本経済の「今」がすっきり理解できるだろう。

本書の要点

・資本主義の特徴は、市場主義の全面化と銀行中心の貨幣制度だ。社会主義は市場主義を廃しようとして失敗したが、私たちは国民中心の貨幣制度を打ち立てるべきである。
・資本主義経済を極限まで加速させることで資本主義を脱しようとする「加速主義」が提唱されている。AIの普及とベーシックインカムの給付による脱労働社会はそのひとつの形だ。
・市場の自由競争が過熱し、人よりもお金の価値が高くなりつつある。「商品」を売るため、労働に特化した住居と人が量産される。私たちが切り売りしているのは、「生きる時間」である。



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