レビュー

誰かの行動を変えるのは難しい。いくら言っても子どもは勉強しないし、部下は現状に安住しているように見える。

この程度ならしつけやリーダーシップ論で解決できるかもしれないが、国家のリーダーが国民全員を説得し、行動変容を呼びかけるとなると話は別だ。実際、新型コロナウイルスへの対応では各国のリーダーにそのような役目が期待された。リーダーや専門家は熱意あふれる演説を行ったが、もしかしたら本当に必要なのは、行動経済学の知見だったのかもしれない。
本書のテーマである行動経済学とは、人間がしばしば不合理な意思決定をすることを前提に、よりよい行動へ誘導する「ナッジ」の設計などを研究する経済学の一分野だ。たしかに私たちには、ダイエットやテスト勉強をぎりぎりまで先延ばしする、同じ額でも所得税より消費税の負担を重く感じるなどといった特性がある。このような特性は、伝統的な経済学では説明のつかないものだった。
ナッジとは、これらの不合理な特性を逆手にとって、私たちの行動をより良くするものだ。テスト勉強なら必要な勉強時間を配分して計画を立てるのが合理的だが、計画通りに行動できる保証はない。それなら毎日の勉強を習慣化できるよう、行動を工夫したほうがいい。これもナッジのひとつだ。
本書を読めば、自分と他者の行動を気持ちよく変化させるヒントが得られるだろう。思うように物事が進まないとイライラする前に、ぜひ手に取ってほしい。

本書の要点

・行動経済学は、従来の経済学とは異なり、人間を完全に合理的な存在とはみなさない。行動経済学において人間は、利得よりも損失を大きく感じる、嫌なことを先延ばしにする、直感に頼るなどといった特性があるとされる。
・ナッジとは、行動経済学的な知見を使うことで、人々をよりよい行動に誘導するものだ。法律による規制や金銭的な見返りを用いることなく、行動変容を実現する。
・同じ報酬でも、意味のある仕事ができたと認識するだけで仕事への意欲が増す。



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