レビュー

本書は、セルフケアや幸福論の本ではない。企業経営や公共政策を主眼とした本でもない。

誤解を恐れずに言えば、本書は、プロダクト開発とイノベーションの本である。
論じられているのは、「どうすれば人々のウェルビーイングに資するサービスやプロダクトをデザインすることができるか」ということだ。ウェルビーイングの研究と実践を牽引してきた著者らは2020年、『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために その思想・実践・技術』を刊行した。本書は、理論と実践の両方でそれを深化させたものである。特に「ゆ理論」は、著者らがこの場で初めて紹介するフレームワークだ。
「本書は学術研究への誘いではありません……ただ、作法は異なっていても、学術的な研究のエッセンスやノウハウをデザインに応用することは有意義だといえます」と述べる著者らに、要約者は深く同意する。
哲学や心理学、工学などのアプローチが盛り込まれた本書の内容を実践することは、決して容易ではない。しかしながら、「ウェルビーイングとは何か」「ウェルビーイングはどのように実現されるべきなのか」という原理的な問いを深掘りせずして、人々のウェルビーイングに貢献する真のイノベーションは生まれないだろう。
気候変動、格差の拡大、社会の分断……私たちの目の前には、社会課題が山積している。それらを解決するのは自分ではない、とあなたは感じているかもしれない。でも、本当にそうだろうか。サービスやプロダクトの開発に携わるすべてのビジネスパーソンに本書を読んでほしいと願う。

本書の要点

・経済発展を至上とする社会構造や、人や自然を道具と見なす価値観の限界が露呈する今日、ウェルビーイングという概念が注目されている。
・これまでは、個人の状態を指す「“わたし”のウェルビーイング」か、集団の平均値を表す「“ひとびと”のウェルビーイング」が重視されてきたが、これからは、個人と個人、個人と集団の相互作用に着目する「“わたしたち”のウェルビーイング」が重要となる。
・サービスやプロダクトを開発する際は、「ゆらぎ」「ゆだね」「ゆとり」に着目した「ゆ理論」の視点から考えることが重要だ。



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