レビュー

どんな人でも多かれ少なかれ、誰かを妬ましく思ったことがあるだろう。SNSが普及し、他人の暮らしぶりが可視化されるようになってからはなおさらだ。

だが嫉妬は善くないものとされているし、なにより苦しい。ゆえに人は嫉妬を感じると、すぐにそんな自分から目を背けたり、嫉妬感情を隠したりしようとするものだ。
嫉妬心はその後ろめたさゆえか、しっかりと正面から見据えて考察されることが少ない感情だった。書籍などで嫉妬を扱う場合でも、いかに逃れるかがテーマになることがほとんどだ。しかし本書はそこからさらに踏み込んで、嫉妬について深く考察していこうとする。著者は本書の第1章で「本書が目指したいのは、この感情の秘密を心の暗部から引きずり出し、そこに光を当てることである」と書いている。
政治思想の研究者である著者、山本圭氏は、哲学を中心とした古今東西の膨大な思想の歴史を紐解き、様々な角度から嫉妬を見つめていく。カントやアリストテレスをはじめ、思想史に名高い哲学者たちがこぞって嫉妬という身近な感情について論じていることを意外に思うかもしれないが、あなたもきっと、彼らが残した「嫉妬論」に共感せずにはいられないはずだ。
本書を読み進めるうちに、嫉妬は、社会や民主主義のあり方と密接に関わっている、現代社会の問題と切り離せない重大な問題であることがわかるだろう。本書を通して、自分の心のあり方のみならず、現代社会のあり方についても、多くの気づきを得られるはずだ。

本書の要点

・嫉妬はありふれた感情だが、他の悪徳と違ってポジティブな要素がいっさいない。誰しも自らが嫉妬に駆られているとは認めたくないし、何より他人にそのことを知られたくないものだ。


・嫉妬は自分と同じだと思える相手に対して向けられる感情だ。相手との距離が近ければ近いほどわずかな差異が目につくようになるため、平等な社会においてこそ、嫉妬心はかき立てられやすくなる。
・民主主義が生き延びるためには、優越願望と対等願望のバランスが重要になる。



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