レビュー
日本文学史に輝く『こころ』は、心理描写の名手として知られる夏目漱石が、人間の内面を抉り出した名作である。他の多くの漱石作品と同様に恋愛と三角関係を題材にしながら、本作では人間の醜さを執拗なまでに描き出す。
作品は上中下の三部構成で、主人公の青年である「私」が「先生」と慕う人物との思い出を語った上下に、先生からの遺書である下が続く。明治の精神が色濃く反映されていることも本作の重要な特徴である。中の最後に、「私」の血縁上の父たる実父と、精神上の父というべき先生の二人の父が、明治の終わりに合わせたかのように死に向かう。封建的な明治の精神を体現する無知な父と、新しい時代の精神を合わせもった知識人たる先生は、たびたび比較されてきた。そして、危篤に陥った実父につきそう田舎で、東京に住む先生からの遺書を受け取ったとき、来るべき大正の時代に向かう青年「私」が選んだのは先生のもとへ向かうことだった。これは、明治とともに生きた漱石自身の思想の表れと見てよいだろう。
要約では原典の雰囲気に忠実に、物語の筋や重要な対比が含まれるよう努めたが、本書の魅力は限られた紙幅だけでは到底語りつくせない。要約であらすじをつかんだら、書籍へもぜひ手を伸ばしてもらいたい。教科書で読んだときとは一味違う、心が揺さぶられる読書体験ができるはずだ。
本書の要点
・暑中休暇を利用して滞在していた鎌倉で、私は先生と出会った。先生は学問があるのに仕事には就かず、毎月雑司ヶ谷の墓地を訪れる以外はあまり出かけることもない、静かな男であった。
・謎めいた言動の多い先生に私は惹かれ、先生の思想に大いに影響を受ける。先生は時機が来たら自分の過去をすべて話すと私に約束する。
・父が病に倒れたため、私は東京を離れ、田舎に帰る。明治天皇が崩御し、新しい時代に向かうなか、父は危篤状態に陥る。そこへ先生からの遺書が届き、私は東京行きの列車に飛び乗った。
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