レビュー

私たちは普段、何気なく「善いこと」と「悪いこと」を区別している。SNSに流れるニュースも、「これは善い」「これは悪い」と判断され、悪いとジャッジされた行為には猛烈なバッシングが浴びせられる。


けれども、そうしたバッシングを浴びせる側の中にも、「悪いこと」に手を染めたことがある人は少なからずいるはずだ。いたずらや信号無視、あるいは……。もしかすると、スリルを求めて「悪いこと」をした経験もあるかもしれない。私たちは「悪いこと」を楽しむ傾向があるということを、認めなくてはならない。
そうすると疑問が浮かぶ。悪いことはなぜ楽しいのか――。
著者の戸谷洋志氏は、倫理学を使ってこの問いに答えを出していく。倫理学は「善いこと」を追求する学問だというイメージを抱いている人も多いかもしれない。そういった意味では、「悪いこと」を倫理学で明らかにするというのは不思議なようにも思える。
しかし倫理学は本来、物事の本質を突き詰める学問だ。いったん既存の価値観をリセットし、徹底的にその主題の本質を思考によって追求していく。ゆえに著者は本書で、一般的な読者とはまったく異なる視点で善と悪を捉えていく。
私たちが普段なんとなく「悪い」と判断している事柄について徹底的に考え抜き、倫理学という行燈を使って、その故郷への道案内をしてくれる。
「悪い」が猛威を振るう時代だからこそ、それに振り回されないために、ぜひ読んでおきたい一冊だ。

本書の要点

・自己中心的な人が楽しそうなのは、それが人間の本能に基づく行動だからだ。
・ホッブズによると、絶対的な強者がいない世界では、生き残りをかけた殺し合いが起こる。そのような争いを防ぐために、私たちは権力に服従し、ルールを守って生活する。
・私たちは、ゲームで強敵を倒すとき、そのキャラクターが悶絶しながら死ぬことを望む。自分の利益にならないのに他者を苦しめたいと思うのは、悪意の衝動に駆られているからだ。
・ルールを変えるため、時に「反逆」が起こるが、そこには予測不可能性がつきまとう。これを制御するのが仲間との「約束」だ。



フライヤーでは、話題のビジネス・リベラルアーツの書籍を中心に毎日1冊、10分で読める要約を提供(年間365冊)しています。既に3,300タイトル以上の要約を公開中です。exciteニュースでは、「要約」の前の「レビュー」部分を掲載しています。

編集部おすすめ