レビュー

「企業変革」という言葉を聞いて、思い浮かべるものは何だろうか。ある種のドラマのような、劇的で急激な変化を想像する人もいるかもしれない。

だが、本書で語られる企業変革は違う。それは地道で時間のかかるやり方である。しかし、変化が起きればその組織により本質的によい効果をもたらしてくれる――そう思える内容だ。そして、その中心にあるのが「対話」である。このスタンスは前々作である『他者と働く―― 「わかりあえなさ」から始める組織論』から一貫しており、そこには著者のたしかな理論と思想が感じられる。
組織の生態はとかく複雑だ。急激な社会変化のもと、いま何が起きているのか、何が問題なのかがわからなくなる。だから前に進めなくなり、自分たちで変化することを諦めてしまう。しかし、絡まった糸を丁寧に解きほぐしていけば、きっと進むべき道は見えてくる。著者は、企業変革が直面する問題のメカニズムの本質に迫り、行き詰まりを打開する道筋を示していく。
対話とは、「1on1を設定する」といったものではない。著者は真の対話に必要なものをこう述べている。
「意味の押しつけをせず、実行部門の人々の世界を知ろうと努め、彼らの言語(ナラティヴ)で、自分たちが進めようとしている施策を捉え直すこと」。その意味と意義を、本書から汲み取っていただければと願う。経営層・ミドル層・メンバー層を問わず、組織を少しでもよくしたいと考える方にとって、本書は希望の書であるにちがいない。

本書の要点

・長期的な企業変革に向けては、(1)全社戦略を考えられるようになる、(2)全社戦略へのコンセンサスを形成する、(3)部門内での変革を推進する、(4)全社戦略・変革施策をアップデートする、という4つのプロセスを実践していくべきだ。
・組織は一度環境に適応すると、効率化のために分業化と仕事のルーティン化を進めるため、構造的に無能化するものである。
・組織としての能力が低下したとき、乗り越えるべき壁は「多義性」「複雑性」「自発性」の3つだ。3つの壁を解きほぐす糸口になるのが対話である。



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