レビュー
明治23年(1890年)1月に発表された森鴎外の代表作『舞姫』は、陸軍軍医としてドイツに留学していた鴎外の経験がもとになっているといわれる。発表以来多くの議論が交わされ、国家と個人の対立、そして近代的自我の目覚めと挫折が主要なテーマであると目されている。
明治維新で封建制度は解体され、日本は急速な近代化のさなかにあった。明治期の青年は、封建時代から引き継がれた家や国家への忠義を重んじる価値観と、個人の自由や意思を重視する西洋的な価値観の間で揺れ動くことになる。こうして注目を集めるようになったのが、近代的自我という概念である。これは自己の内面に目を向け、自分の意思や価値観に基づいて行動することを重視する自我を指す。この近代的自我を獲得せんと葛藤する青年を文学の主題として描き出したという意味で、『舞姫』は画期的な作品であった。
本作の主人公である太田豊太郎は、将来を嘱望されドイツに国費留学した青年であるが、西洋の空気に触れ、それまでの受動的で機械的な生き方に疑問を抱くようになる。女遊びを噂され、仕事を失い、学費も打ち切られた豊太郎は、踊り子エリスと恋に落ち、貧しくも幸せな生活を営み始める。自己の意思を重視する生き方を始め、自由を手に入れたと誇る豊太郎であったが、結局は個人の生活を捨て、家や国家の期待に応える道へと戻っていく。
生き方に悩む様には現代人にも共感できるところが多いが、文語で書かれた原文は読みづらく感じられることだろう。現代語でまとめた本要約で物語の概要をつかんでから、原典にあたってみてはいかがだろうか。
本書の要点
・将来を嘱望されドイツに国費留学していた太田豊太郎は、現地で踊り子エリスと恋に落ち、出世の道からは外れたが、貧しくも幸せな生活を営むようになる。
・エリスが妊娠した頃、かつての学友の計らいで、豊太郎は名誉回復の機会を得て日本への帰国が叶うことになる。
・豊太郎はエリスをドイツに残して帰路につき、帰国の船内で自分に残った恨みを回顧する。
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