レビュー

『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』は、2025年3月に慶應義塾大学SFCを定年退職した著者が、学生向けに行なった「認知心理学」の最後の講義をベースに書籍化されたものだ。この科目は「一般教養」で、受講生の多くは卒業後に研究者になろうとしているわけではない。

認知科学者である著者が、何を伝えたら学生たちの将来や人生に役に立つのかと、28年にわたって積み上げてきたのがこの授業だ。
生成AIが急速に発展し、これまで人間にしかできないと思われていた「知的活動」まで模倣しはじめた。こうなってくると、さまざまなバイアスがあり、情報処理力や記憶力に限界がある人間は、生成AIよりも劣った存在なのではないかと不安に思う人もいることだろう。そんななかで著者は、認知心理学は「生成AI時代を幸せに生きる」ために役立つ学問だと説く。それはけっして単なる気休めではない。認知心理学的な知見から考えれば、悪者にされがちな「バイアス」は人間ならではの学習や知識の創造に役立っており、何かを極めることができるのは人間だけだというのだ。
情報過多の現代において、人間ならではの思考を問い直す本書は、「人生の大問題」と向き合うための羅針盤を提供してくれる一冊だ。著者の最終講義は、これからの時代を生きる若者への温かいエールだ。この目線の温かさは、多くの人の人生を明るく照らしてくれることだろう。

本書の要点

・人間にはさまざまなバイアスがあり、これは合理的な選択を妨げるものとして悪者にされがちだ。しかし、バイアスがあるからこそ、人間は世界とより良く関わることができ、人間ならではの推論や学習ができるという側面もある。
・バイアスがないAIは、直観に基づく仮説を立てることができないため、新しい知識を創造することができない。


・常に変化し、独自性を持った意思決定ができるようになるのは、真剣で考え抜いた訓練を積み重ねた人間だけだ。



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