レビュー

教養という言葉は今でもSNSで頻繁に聞かれるが、教養主義となるとなかなか馴染みがない。教養主義とは、1970年ごろまであった、主に高等教育機関における学生の中心的価値観である。

歴史や哲学などの難しい書籍を読みあさり、それを読まなければ恥ずかしい、といったような気風があったという。そうした教養主義について、著者の経験と豊富なデータから読み解くというのが、本書の試みである。
現在でも、戦前から戦後にかけての学生文化は、一部の人間の興味を強く惹きつけてきた。たとえば日本における共産主義を調べるにあたって、この頃のキャンパスがどのようなものであったかを避けて通ることはできない。柔道の歴史でも七帝大や高専柔道の話は重要な意味を持つ。しかし興味のない人からすれば、その実態はベールに包まれている。それがなぜいま脚光を浴びたのだろうか。
あるインタビューで米津玄師氏が、最近注目している作品として本書をあげており、さらに『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の著者である三宅香帆氏も、本作の影響を受けたと公言している。そうした種火からやがて炎が上がり、令和の今に煌々と光を放つまでになった本書。教養主義は、人生にたとえるなら黄昏てしまったといえるかもしれないが、決してそれは我々と断絶した過去ではない。教養主義は日本に存在したし、そうした教養に魅了された人間が作り上げた遺産の上に、私たちは立っている。だからこそ、意外なところで本書に共感するかもしれないし、新たな発見につながるかもしれない。

本書の要点

・教養主義は旧制高校を舞台とし、大正教養主義として花開いた。その後、急速に勢力を伸ばしてきたのがマルクス主義である。
・旧制高校で教養主義にのめりこんだ者は、その後、帝大文学部へと進学した。帝大の文学部に進んだ学生は教師となり、そして教師に影響された学生が教養主義にのめりこむという循環が生じていた。
・日本社会の変化は、教養主義の環境を一変させた。教養知は技術知にとってかわられ、教養主義を生み出していた地方と都市部の格差が縮小する。教養主義の終わりが近づいていた。



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