近年では珍しい「リバプール優勢」のプレミア頂上対決
11月10日(日)に開催される、リバプール対マンチェスター・シティの大一番。 2019-20プレミアリーグの優勝争いを占うビッグゲームであるのはもちろんのこと、「ポジショナルプレー」と「ストーミング」という、現在のサッカー界を席巻する2大トレンドの先導者同士の激突という点でも見逃せない一戦だ。果たしてどんな展開が待ち受けているのか。
文 林 舞輝(奈良クラブGM)
グアルディオラとクロップ。「ポジショナルプレー」と「ストーミング」という世界のサッカーを引っ張る2つの派閥の旗手がサッカーの母国で火花を散らし始めて以降、これほどまでに「リバプール優勢」の前評判で始まるプレミア頂上決戦は、今までにはなかっただろう。2人のイングランドでの対戦成績はクロップが4勝、グアルディオラが3勝(うち1つはPK勝ち)、そして2つの引き分け。だが、そのほとんどが「シティ優勢」もしくは「互角」で始まった試合だった。マンチェスター・シティは2年連続でリーグ優勝し、CLでも優勝候補筆頭に挙げられていた。シティが「王者」として迎え、リバプールが「挑戦者」、今まではどちらかと言えばこういう構図でキックオフを迎えていたのが、このプレミアリーグの覇権を争う天王山だ。
だが、今回は違う。リーグの順位表を見れば、勝ち点はすでに2試合分の6差が開き、リバプールが首位。リバプールはいまだ無敗だ。さらに、平日に開催されたCLでリバプールはサディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ、アンドリュー・ロバートソン、ジョーダン・ヘンダーソンを温存することができた(ヘンダーソンは体調不良も噂されているが)。万全の状態と言って良いだろう。

今季の“第1ラウンド”となったコミュニティシールドではPK戦の末シティに凱歌が上がった
普通とは逆。稀なチーム作りのプロセス
リバプールのスタメンは「いつも通り」でほぼ確定だろう。GKアリソン、フィルジル・ファン・ダイクとデヤン・ロブレンのCB、右SBにトレント・アレクサンダー・アーノルド。左SBにロバートソン。中盤にファビーニョ、ヘンダーソン、ジョルジニオ・ワイナルドゥムのスリーボランチ、前線はマネ、モハメド・サラー、フィルミーノのお馴染みの3トップ。多少の変更はあるかもしれないが、これが既定路線だろう。
リバプールが面白いのは、初手が「ストーミング」であり、次の手としてポゼッションがあることだ。
振り返ってみると、クロップ政権のリバプールのチーム作り自体が同じように、普通とは逆の手順だった。トランジションと高速カウンターを武器のストーミングを核としたチーム作りをするものの、途中でその限界に気づき(シティには勝てるのに引いて守られると降格したスワンジーにも敗北)、昨年からポゼッション主体のサッカーもできるハイブリット型へ移行した。普通、逆である。「ポゼッションサッカーのチーム作りをしてみたんだけど、技術とか選手の質とかそういう問題でなんやかんやいろいろ失敗して、最終的にボール保持にこだわらず守備ブロックを作って蹴ってハードワークする現実路線へ変更」というのが、どこの国にでもよくあるチームの話だ。後からポゼッションサッカーに手をつけてみたら意外とできちゃいました、なんて話はリバプールぐらいではなかろうか。実際、今シーズンは今のところカウンターでの得点の2倍以上の得点をポゼッションから奪っている(ここでは、ストーミングの祖ラングニックの「10秒以内にフィニッシュ」というルールから、カウンターを『ボール奪取から10秒以内のフィニッシュ』、ポゼッションを『ボール奪取から10秒以上かけてのフィニッシュ』という定義をした)。
リバプールは[4-3-3]だが、ポゼッション主体の組織的攻撃になると両SBが大外のレーンで高い位置を取り、フィルミーノが下りてきて、両ウイングがハーフスペースに入って距離を縮めるダイヤモンド型の[4-4-2](ファビーニョがアンカーでフィルミーノがトップ下)のようになる。5つのレーンを万遍なく埋めながら配置で崩すところは、ポジショナルプレーっぽいとも言えるだろう。

リーグ無敗、CLでも順調に勝ち点を積み上げる今季のリバプール
唯一無二「ポジショナル・ロングボール」が使えない痛手
対するシティは、DF陣の陣容すらわからない。右SBにカイル・ウォーカー、左SBにバンジャマン・メンディはほぼ確定だろうが、CBは復帰明けのストーンズ、不安定なプレーが続くニコラ・オタメンディ、本職でないフェルナンジーニョから苦渋の決断で2人を選ぶことになる。リバプールの攻撃を抑えるには、不安材料しかない。GKの代役クラウディオ・ブラボは、プレシーズンから正GKの座を奪おうかという勢いでキャリア最高レベルのパフォーマンスを発揮しており、純粋なセービング能力などではそこまでエデルソンには劣らない。だが、シティにとって、エデルソンの唯一無二の特殊能力である「ポジショナル・ロングボール」がなくなるのは、非常に痛い。GKというポジションは、ピッチ上で唯一、顔を上げた時に味方の選手10人が視野に入る。逆に言えば、10個の選択肢が目の前に広がっている中で、最適な選択をして正確にボールを供給するというのは、ほぼ不可能に近い。だが、エデルソンにはそれができる。
選手層が厚いはずのMF陣も、ここまでケガ人がでるとキツいというのが、正直なところだろう。過去の試合の選手起用を見ていると、何とか可能な限りローテーションを使って負荷を逃がそうとしている努力が見られるが、そうは言っても連戦が続いている。イルカイ・ギュンドアンのアンカー、ケビン・デ・ブルイネとベルナルド・シルバのインサイドMF、右サイドにリヤド・マレズで左サイドにラヒーム・スターリング、セルヒオ・アグエロのCFが予想されるが、フィル・フォデンやガブリエウ・ジェスズの起用もあるかもしれない。いずれにせよ、シティのやるサッカーが変わることはない。よって、失点するとしたら、自陣でのミス、カウンター、そしてセットプレーのいずれかになる可能性が高い。

不在はシティにとって大きな痛手となるエデルソン
もしかすると、の可能性
あえて意外な観点でこの試合を考察すると、もしかするとリバプールがポゼッションでシティを上回ることがあるかもしれないということ。言うまでもなく、ポゼッションはシティの生命線だ。だが、最近の試合を観ていると、この2つのチームにポゼッションの質の違いはそこまで見られない。それに加え、アンフィールドという地、エデルソンとラポルトの不在、ケガ人の数によるコンディションの差、無敗で自信満々というリバプールのメンタル面での優位なども鑑みると、リバプールがボールを握る展開になることもあり得るかもしれない。
ボールを握るリバプールが押し込まれたシティをなかなか崩せずモヤモヤしてるうちに、ロングカウンターからアグエロがリバプールの選手たちを置き去りにしてゴール……。初めての「リバプール優位」の頂上対決では、もしかするとそんな珍しい出来事も目にすることができる……かもしれないし……しないかもしれない(笑)。

昨季1ポイント差で決着したハイレベルな両者の優勝争いは、直接対決の行方が大きく命運を分けた。この一戦が持つ意味は、とてつもなく大きい
プレミアリーグ第12節 リバプール vs マンチェスター・シティ LIVE ON DAZN
https://youtu.be/zzykRRJoBm82019年11月10日(日)25:30キックオフ DAZN独占ライブ中継&見逃し配信
リバプール vs マンチェスター・シティ
Photos: Getty Images