【増田俊也 口述クロニクル】


 写真家・加納典明氏(第6回)


 小説、ノンフィクションの両ジャンルで活躍する作家・増田俊也氏による新連載がスタートしました。各界レジェンドの一代記をディープなロングインタビューによって届ける口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇ 
 
増田「僕は草間彌生さんのファンでしたし、畑正憲さんのファンだった。その両方が加納さんとクロスしていることを知って、どうしても加納さんの生涯をたどって、加納さんのパワーの源泉を知りたかったんです。それくらい加納さんは日本の文化史や芸術史で重要な人物だと思っています。ムツさんは加納さんのことだけは別格だと思っていた節があります。ものすごく影響を受けていました」


加納「ムツさんが、俺から影響を受けてた?」


増田「かなり強い影響を受けていますね。人生観が変わるほどの」


加納「どういうことですか」


増田「彼の大量のエッセーを読んでいると『加納典明から影響を受けて自分は変わった』みたいなことを何カ所かで書いてるんです」


加納「そいつは知らなかったな」


増田「僕は子供のころから繰り返し読んでたからそれが見えた。あの人はすごくプライドが高くて、人を褒めるときも斜に構えてるんですよ。褒め殺しといいますか。でも典明さんには本物の敬意があるんです」


加納「それがわかりますか」


増田「文章の温度からわかりますね。例えば『これは加納典明から教わったことだ』と断って『自分は物を持つのに自分はこだわりがなかったんだけども典明が一流の物を持てと厳しく言うんで段々と理解していった』と。例えば釣り竿。

畑さんはその辺りの竹を刈って使ったり、安物を買ってきて使っていた。釣果を出せば関係ないだろうと。それを一流の物を使えっていうことを言われたんだと。それであらゆるものに一流の物ばかり使うようになったと。どんな話をされたんですか?」



①一流の物を使う意味

加納 「ああ。そういうことね。たとえばあれは僕流の考え方があって、畑さんがそういう何でもないものを使ってやるのも一つの世界観であるし価値観だけれども、もっといい世界があるんですよと意見したんです」


増田「釣りにしても」


加納「そう。例えば釣りにしても」


増田「道具によって違ってくると」


加納「違うね。本当の竿、優れた竿を使ってやるのと、自分で作ったいい加減な竿でやるのと、たとえば魚が掛かったときにくる引きから何から全然違うわけよ。畑さんのやり方も1つの考えとしては全然オッケーだとは思うけど、その違いを知ったほうがいいと思った。いいもの使うのもこだわりだけど、悪いものを使ってこだわっていたのが彼。それが格好いいと思って、誤解してたんだよ」


増田「僕はあれだけの人物、つまり畑正憲さんに言うことを聞かせる加納典明さんってどういう人なんだろうって、若い頃からずっと思ってたんです。

関係性が不思議で。彼はものすごく頑固でしょう」


加納「頑固だね。自分を持っているともいえる」


増田「普通の人に言われたら、何言ってんだ馬鹿野郎ってなる。それが加納さんに言われて、そうだよなと納得して、これはどういうことなんだろうと」


加納「そうだな。そうだろうね。俺ははっきり言うからね。悪いものをわざと使って格好つけるなって」



(第7回につづく=火・木曜掲載)



▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。


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