急転直下だった。


 スイスのジュネーブで貿易協議を行った米中両国が12日、相互に課している追加関税を115%引き下げることで合意した、との共同声明を発表。

米国の対中関税は145%から30%に、中国の対米関税は125%から10%となる。


 115%のうち、24%分は90日間の一時的な停止。残る91%分は取り消すという。両国は経済貿易協議の枠組みをつくり、今後、協議を継続することでも合意。交渉に当たったベッセント米財務長官は「米中のデカップリング(切り離し)は望んでいない」と話し、中国側の何立峰副首相は「さらなる相違の解消と協力の深化のための基礎を築いた」と成果を強調した。


 あれだけいがみ合っていたのに、急激な摩擦緩和で世界経済に好影響を与えそうだ。今後、どう転ぶか分からないにせよ、当面は歓迎すべきだろう。ただ、さえない表情を浮かべているのが石破首相だ。12日、米中合意が日米交渉に与える影響について報道陣に問われたが「いま精査して、内容を確認しているので答えられない」とポツリ。どうやら、米中合意は日本にとってマイナスになる恐れがある。


 第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏はこう言う。


「トランプ大統領は中国に対しては徹底的に強硬な態度で臨み、同盟国の日本には何だかんだ相互関税の一部引き下げに合意するのではないかと思われました。

英国に続き、日本とも合意することで成果をアピールするシナリオです。ところが、中国に対し予想外に大幅な妥協をしてしまった。バランスを取るために、日本にはそれ以上の大きな譲歩を迫ってくるのではないか。依然として日米間の隔たりは大きく、既に2回も直接交渉しているのに進展がない。今後、厳しい条件を突きつけられる可能性が高まっているように見えます」



「大成功」とアピールする思惑も

 石破首相のテンションが低いのも当然というわけだ。もともと、官邸は6月中旬のG7サミットまでに決着させる戦略だったが、米国の高関税が市場の総スカンを食らい「トリプル安」を招いたため、トランプ大統領は相互関税の猶予期間を設けるなど態度を軟化。そのため、官邸は「時間をかけた方が妥協を引き出せる」と踏み、長期戦略に切り替えたという。しかし、中国との合意で、そのプランは泡と消えそうだ。


「関税交渉を参院選対策に利用する思惑もあったが、それも崩れかねません」と言うのはある官邸事情通だ。


「トランプ政権の相互関税の猶予期間が終了するのは7月9日で、参院選の公示が想定される同3日と時期が重なる。選挙スタート前後に『交渉は大成功』とアピールできる可能性があるわけです。石破官邸は、それまでは時間をかけて交渉しているそぶりをすればいいと考えているフシがある。

交渉役を担う赤沢経済再生相は“やってるフリ”を演出するための道化役をキチンと果たしています。ただ、絵に描いた餅となりかねない状況です」


 そもそも、関税交渉という重大事を選挙利用しようという魂胆が浅ましい。交渉に失敗しても自業自得だが、苦しむのは国民だ。


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