【あの頃、テレビドラマは熱かった】#4


 「あすなろ白書」(1993年/フジテレビ


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 リストラの加速や就職難、バブル崩壊が、その恩恵を受けていなかった層にも影響してきた1993年。逆にテレビは「無料の娯楽の王様」として君臨していた。


 各クール、新番組が始まるたびに「制作発表会」が行われるのは立派なホテルで、そこだけバブルのまま。特に赤坂にあるTBSは近くのホテルニューオータニとか赤坂プリンスで番組ごとに立食パーティーが開かれ、グラス片手の出演者やスタッフと気軽に立ち話ができたものだ。


 さて、1993年のGP帯の連続ドラマは、1月期「高校教師」(TBS系)、4月期「ひとつ屋根の下」(フジテレビ系)、「ダブル・キッチン」(TBS系)、7月期「誰にも言えない」(TBS系)、10月期「あすなろ白書」(フジ系)の5作品が最高視聴率30%以上を記録した。


 その5作品の中で、今回は「あすなろ白書」について。主題歌は80年代にアイドルバンドとして名を馳せたチェッカーズのボーカル、藤井フミヤのソロ作品「TRUE LOVE」♪


 木村拓哉の月9初出演作は、ダブル主演の石田ひかり筒井道隆に次ぐ3番手だった。黒縁眼鏡がトレードマークの、お調子者だけど心優しく一途な“取手くん”。自慢のセクシーさは封印していたものの、第2話で“あすなろ抱き”という伝説のシーンが炸裂する。石田ひかりを後ろから抱きしめて「俺じゃダメか?」という、そりゃもう何度見ても、シビれる瞬間。このドラマ、主役の恋する“掛居くん”を演じたのがアイドルでもモデルでもない筒井道隆だったこともあって、キムタクの“取手くん”か、西島秀俊の“松岡くん”に多くの女子たちの熱い視線が注がれた。


 プロデューサーは、その20年後にフジテレビ社長に就任することになる亀山千広氏。イケメンで話が上手で、めちゃめちゃモテそうな雰囲気で、こんなことを語っていたのを覚えている。


「数字は出ているけど、どうしてもTBSのドラマにはかなわないな、と実は思っている。

伝統というか、基礎体力というか、ベースの部分でウチはまだまだ。その差を埋めるには、いかに見る人に喜んでもらえるかを最優先して、キャスティングやちょっとした場面の仕掛けとか、必死で研ぎ澄ますしかない」


 彼が手掛けた96年「ロングバケーション」、97年「ビーチボーイズ」「踊る大捜査線」を見れば、それも納得。


 ちなみに93年10月クール、日本テレビ系は「もうひとつのJリーグ」、TBS系は「オレたちのオーレ!」、テレビ朝日系は「青春オフサイド!女教師と熱血イレブン」という、この年に開幕したJリーグに乗っかった企画が並んでいた。“ドラマの当たり年”に隠れた黒歴史だ。


(テレビコラムニスト・亀井徳明)


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