【桧山珠美 あれもこれも言わせて】


 北大路魯山人については、作陶、絵画、書とあらゆる分野に通じた芸術家であり、とりわけ美食家として名を馳せたことは広く知られているが、生い立ちや人となりなど人生の全体像まで知る人は少ないのではないか。むしろ、若い人などには漫画「美味しんぼ」の海原雄山のモデルと言った方が通りがいいだろう。


 同作はドラマ化、映画化もされた。唐沢寿明が主人公・山岡士郎を演じたドラマ版では海原役を原田芳雄&江守徹が務めた。さらに、佐藤浩市主演の映画版では海原を三国連太郎が演じ、初の親子共演と話題を呼んだ。


 一般的にイメージする魯山人像は彼らが演じてきた完璧主義な食の求道者。3月31日にスタートしたNHKドラマ10「魯山人のかまど」はそんな既成の印象を柔らかく覆す作品になりそう。魯山人の晩年を描く本作は抜群に面白い。


 魯山人を演じるのは御年84の藤竜也。技巧を超えた演技はまさに枯淡の境地。枯れてなお放たれる色香に思わず見入ってしまう。藤は「時間ですよ」で篠ひろ子演じるママのいる小料理屋のカウンターの端で寡黙に飲んでいるワケあり男を演じたが、当時から孤高の役柄が似合った。本作でもその資質は揺るがず、まさに国宝級イケオジ。



■引き立て役はとぼけた味わいの古川琴音

 魯山人の口述筆記を担当する記者・田ノ上ヨネ子を演じる古川琴音もいい。

とぼけた響きを含む声とあどけなさを残した佇まい。それを併せ持つのが古川の魅力だ。彼女が演じるヨネ子は真っすぐで好奇心旺盛。思ったことをためらいなく口にする。その率直さで一筋縄ではいかない魯山人の懐にすっと入り込む。


 物語は「回顧録」を書くためにヨネ子が魯山人に話を聞く形で進んでいく。彼女の好奇心に導かれるように視聴者も魯山人の輪郭を少しずつ知ることになる。


 本作の魅力はもうひとつある。魯山人の住まいや家具調度、器に至るまで本物が使われている点だ。そこには脚本・演出を手がける中江裕司の強いこだわりがある。


 中江といえば、2022年の映画「土を喰らう十二ヵ月」の脚本・監督として知られる。水上勉の料理エッセーを原作に沢田研二主演で映画化された作品で、作家・ツトムを沢田、担当編集者で恋人の真知子を松たか子が演じた。

自然の恵みとともにある暮らしを描き、何より料理の描写が印象的だった。制作秘話によれば、魯山人の住まいはもちろん、家具調度や器の多くが実物だという。


 制作延期や主演交代といった紆余曲折もあったという。本来、魯山人役は小林薫が予定されていたが、途中降板に。年代的には小林が近いのかもしれないが、仕上がりを見る限り、藤で問題なし。小林が演じていたならどうしても「深夜食堂」のマスターのイメージが重なってしまうから。


 早くも名作の予感が漂う「魯山人のかまど」。じっくりと味わって欲しい。


(桧山珠美/コラムニスト)


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