2025年9月5日、米移民当局がジョージア州の現代自動車EV用バッテリー工場で、不法滞在・不法就労の疑いで475人の外国籍労働者を拘束した事件は、米韓関係に新たな波紋を広げている。特に、拘束された300人以上の韓国人労働者の処遇と、今後の両国関係の行方が、トランプ政権下の厳しい移民・労働政策を背景に注目されている。

 
 300人以上の韓国人労働者の帰国スケジュール
拘束された韓国人労働者300人以上のうち、大部分はすでに帰国手続きが進められている。早ければ9月10日にチャーター機が手配される見通しだ。

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 他の韓国系工場への影響と米国の投資環境

 今回の摘発は、ジョージア州だけでなく、米国全土で事業を展開する韓国企業に大きな衝撃を与えた。

 警戒感の広がり: 今回の事件を受け、LGエナジーソリューションやサムスンなどのEVバッテリーや半導体工場でも、労働者の在留資格の再確認が急ピッチで進められている。韓国企業は、同様の摘発リスクを回避するため、今後の採用プロセスにおいて、ビザ申請手続きの厳格化や、法務部門によるコンプライアンス遵守の徹底を図っている。

 投資環境の不安定性: 今回の事態は、韓国企業が米国への巨額投資を進める上で、予期せぬリスクが存在することを浮き彫りにした。これまで経済協力の象徴とされてきた米国の投資環境が、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」という考え方に基づく厳しい移民・労働政策によって不安定化する可能性が懸念されている。今回の摘発は、合法的な投資であっても、国内法の遵守が厳しく問われるというトランプ政権の姿勢を改めて明確にしたものと受け止められており、韓国企業は投資計画の再評価を迫られるかもしれない。

 米韓関係、ボタンの掛け違いはどこに?

 今回の事件は、米韓関係の「ボタンの掛け違い」を露呈した。経済協力と内政問題の乖離: 韓国側は、IRA対応を契機とした半導体・EVバッテリー分野への巨額投資が、米国の経済安全保障に貢献し、両国関係を強固にするという期待を抱いていた。しかし、トランプ大統領の政策の中心にあるのは、あくまで「アメリカの雇用と安全」であり、不法就労は経済協力の前提となる法的秩序を揺るがすものと見なされる。今回の摘発は、その考え方が具体的に法執行として表れたとみられる。


 法執行に対する認識の相違: 米国は今回の摘発を「不法就労・不法滞在という法執行上の当然の措置」と位置づけている。トランプ大統領は、不法移民問題を国家の主権に関わる問題と捉え、国境管理の強化と不法就労の取り締まりを最優先課題としている。一方、韓国側は、米国における韓国企業の活動を阻害する不当な措置だと受け止め、自国民の保護を強く訴えた。この法執行に対する認識の相違が、両国間の相互不信を深める一因となった。

 今後の展望

 今回の事件は、単なる移民法違反の摘発にとどまらず、米韓同盟が直面する新たな課題を突きつけた。韓国企業は、今後も米国への投資を継続する上で、トランプ政権下の国内政治や法執行の動向をより慎重に見極める必要に迫られるだろう。今回の事件を教訓に、両国が経済協力と国内政策のギャップを埋め、相互理解を深めることができるかが、今後の米韓関係の安定を左右する鍵となる。
【編集:af】
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