中国の習近平政権が、日本の高市早苗政権に対して、かつてない規模と密度で外交的圧力を強めている。外交部、国防部、商務部といった主要省庁のみならず、中国共産党の機関紙である人民日報や環球時報、さらには国連代表部に至るまで、中国のあらゆる政府機関と宣伝媒体が総動員され、異例の対日批判キャンペーンを展開しているのだ。
この「全方位攻撃」とも言える異常事態の直接的な引き金となったのは、11月7日の国会において高市総理が行った一つの答弁である。総理は台湾情勢の緊迫化に関連し、事態の推移次第では安全保障関連法上の「存立危機事態」に認定し得る可能性を明確に示した。

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 存立危機事態とは、日本と密接な関係にある他国――事実上の同盟国である米国――に対する武力攻撃が発生し、それによって日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態を指す。この認定がなされれば、自衛隊は集団的自衛権を行使し、攻撃を受けている米軍を後方支援のみならず実力行使によって防衛することが法的に可能となる。中国共産党にとって、台湾統一は譲ることのできない「核心的利益」であり、そこに日米が軍事的に一体となって関与するシナリオは、習氏の悲願である「中華民族の偉大な復興」を根底から阻む最大の障壁となる。そのため、高市総理の発言は、中国側にとって看過できないレッドラインを越えたものと映ったのである。

 中国情勢に詳しい専門家は、今回の中国側の激昂の背景には、習近平国家主席個人の「焦り」と「メンツ」の問題が深く関わっていると分析する。実は、この発言の直前となる10月末、日中首脳会談が行われていた。その席上、習氏は高市総理に対し、台湾が中国の一部であることを認める「日中共同声明」など四つの基本文書の遵守や、水産物輸入再開に向けた条件、中国人の拘束問題、さらには人権問題に関する中国側の主張を一方的に突きつけた。中国当局は国内向けに、この会談を「日本側が中国の主張に真摯に耳を傾けた外交的勝利」であるかのように宣伝し、習氏の権威付けに利用していたのである。

 しかし、そのわずか1週間後になされた高市総理の「存立危機事態」発言は、中国側のプロパガンダを否定し、圧力には決して屈しない日本の毅然とした姿勢を内外に鮮明にするものであった。自国民に対して「日本を指導した」と見せかけていた習氏の顔に泥を塗る形となり、指導部としてのメンツは完全に潰された。
世界秩序を中国中心の価値観で書き換え、各国の指導者を経済力と軍事力でコントロールしようとする習氏にとって、自らの意のままにならず、原理原則を貫く高市総理の存在は、排除すべき最大の「目の上のたんこぶ」となっている。

 加えて、習政権は高市総理が以前より示唆していた靖国神社参拝に対しても強い警戒感を抱いている。今回の猛烈なバッシングには、「存立危機事態」発言への報復という側面に加え、将来的な靖国参拝を牽制し、日本国内の親中派勢力や経済界を揺さぶることで高市政権の足元を崩そうとする高度な政治的意図が透けて見える。あらゆる外交ルートを通じて「日本は軍国主義の復活を画策している」「戦争の準備をしている」といった極端な言説を流布し、国際社会における日本の孤立化を図ろうとするその手口は、焦燥感の裏返しでもある。しかし、中国側が期待するような「日本の恭順」が得られる兆しはなく、事態は習氏の想定を超えて、日中間の根本的な価値観の対立を浮き彫りにする方向へと進んでいる。
(続く)
【編集:af】
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