「同物同治」という言葉をご存知でしょうか。

中国の薬膳の考え方で、身体に調子の悪い部位がある場合、その部位と同じ動物の肉を食べることで健康になれるというもの。
例えばお腹の調子が悪いときはガツ(豚の胃)を食べたり、お酒を飲み過ぎたときはレバーを食べたり、なんて具合ですな。

ところで、話変わって私には現在1つの悩みがあります。

それは、

働き過ぎなこと。

■この記事の完全版(全画像付き)を見る

物書きなんて因果な商売、休日返上・一徹二徹は日常茶飯事。時折過労死の気配を感じて慄然とすることも。

ああ、たまには心からリラックスして休日を満喫したい。仕事のストレスから解放されて、だらだら怠惰に過ごしたい。つーか、仕事したくない。怠け者になりたい。

ん、怠け者……?

この悩みも「同物同治」で解決できるんじゃね?

胃弱を治したい → 動物の胃を食べる
肝臓を元気にしたい → 動物の肝臓を食べる

ってことは、

働き過ぎを治したい → ナマケモノを食べる

※ナマケモノ:異節上目有毛目ナマケモノ亜目に属する世界で最も動きの遅い哺乳類。一日に20時間も寝る怠け者のキングオブキングス。エサを食べることすら怠けてて、発見したヨーロッパの探検家をびっくらこかせた。
っていうか動かなさすぎて身体にコケが生える。本当に生物?

これだ。これ以外考えられない。

怠け者になるためにナマケモノを食べなければ!

ところでナマケモノってどこにいるんだ? 日本にはいない? え、アマゾン? オーケー、

行ってきました、アマゾン川。

ここは南米・ペルーのイキトス。アマゾン川上流に位置するエリアで、ペルーにおけるアマゾン河川交通の主要拠点のひとつです。

「そこがどんな場所が知りたければ市場を歩け」という格言がありますが、イキトスの市場を覗いてみると、

(ひぃ)

ワニの腕が転がってたり、

(えぇ……)

アルマジロが丸ごと売ってたりと、この時点でどうかしてる(まだジャングル入ってません)。

それ以外にもピラニアとか、全長1mくらいあるトカゲとか、気が狂っているとしか思えないようなカラーリングの鳥とかが屋台に並びまくっていて、アマゾンの大自然に圧倒、というかすでにもう帰りたくなってきているのですが、肝心のナマケモノは市場には出ておらず、生息しているエリアまでボートで移動することに。

(嫌な予感しかしねぇ…)

うーむ、アマゾンです。「世界ふしぎ発見」とかでしか見たことのない秘境に自分がいるという事実に正直テンションが上りますが、同時に滅茶苦茶不安でもあります。

そもそも「怠け者になりたいからナマケモノを食べたい」なんてアホな動機で海外渡航して死んだら一体世間にどう釈明すればいいのでしょうか。まず間違いなく日本の恥です。
いや、でも死んだら働かなくていいわけだから一応目的は達成しているわけか。哲学だな。

……そんなことを考えているうちにボートの上で5時間が経過。目の前には、

(海かよ)

死ぬほど雄大な光景が広がっているわけですが、え、つーか、どこまで行くの?

(ガイドのホセさん)

ホセ「え、言ってなかった? ボートで20時間くらいかかるから今日は泊まりだよ?」(山刀を研ぎながら)

……、怠け者になるのは大変だなー(棒読み)。

▼▼▼▼▼▼

で、夜。

ボートを川岸につけて船上で睡眠を取ります。

で、川岸ということは陸地と接しているということです。

陸地ということはアマゾンの素敵な生き物たちがボートによってくるということです。

タランチュラとかもボートに侵入してくるわけです。

で、時にはおしっことかに行きたくなることもありますよ。

草むらへの道すがら、アナコンダとか踏みそうになって悲鳴を上げたりするわけです。

で、そんな私をガイド&護衛してくれるのは生粋のアマゾンっ子のペルー人なのです。


(ガイド2のアントニオさん。狂っているのかな?)

タランチュラを顔に貼り付けて笑いをとってきたりするわけです。

なにこの地獄。

で、結局この日は一睡もできずに朝を迎えることに……。

繰り返していいすかね。怠け者になるのは大変だなぁ!(絶叫)

▼▼▼▼▼▼

そんなこんなで順調にトラウマを量産しつつナマケモノが生息するエリアまでやってきました。

(山刀でジャングルを切り開きながら進む)

ガイドさんの話によるとこの辺りにも小さな集落があって、住民は普通にナマケモノを食べるそう。ほとんど動かないから捕まえやすく、ポピュラーなタンパク源になっているらしいです。

しかしながら、ナマケモノがほとんど動かないのにも理由があり、ジャガーなどの捕食者の目から逃れるためで、樹の幹の色に似た体毛とあいまってかなりのカムフラージュ効果があると図鑑で読みました。本当にそんなに簡単に見つかるものなんですかね。みたいなことを考えていた数秒後、

(「呼んだ?」)

いたーーーーーーーー!!!

捕まったーーーーーーーー!!!

■この記事の完全版(全画像付き)を見る

え、果物をとるより簡単に捕獲されたんですけど君本当に大丈夫?生き物として。

しかも何がすごいってね、彼、捕まえられたってのに全然暴れないのですよ。
抵抗することすら怠けてる。生存本能仕事して!

ナマケモノは本当に怠け者だった。しかもその顔つきにはどことなく愛嬌があってすごく可愛い。いやー、この体験だけでアマゾンに来た甲斐がありました。

ガイド「じゃあ殺そうか」

え?

ガイド「? だって食べるために来たんでしょ?」

…………。

(「……?」)

(「殺すの?」)

ごめん、殺せない。

すいません、卑怯者です。地元の人々が普通に狩って食べていることは重々承知なのですが、自分の意志をもって一匹の動物を殺すという決断を下すことができない。矛盾があるのもわかってます。私も日頃牛や豚を食べてる。しかし生き物の命を奪う直接の当事者になってしまうのは“重い”のです。最低の小心者だ。


地球の裏側で生殺与奪の倫理の重さと自分の矮小さを突きつけられました……。ここまで来たのに、ナマケモノを食べずに帰国することになるとは。

ガイド「友達の家がすぐそこなんだけど、たぶん肉余ってるよ。食べる?」

………、

はい、食べます(即答)。

というわけで近隣住民にサクッと焼いてもらったナマケモノの肉がこちら。

(さしずめ「ナマケモノのソテーアマゾン風 緑黄色野菜を添えて」という感じか)

■この記事の完全版(全画像付き)を見る

ぱっと見、牛肉と非常に似ている。ナマケモノは進化の系譜でいうとアリクイとかアルマジロの親戚にあたるそうで、どんな味かまったく想像できません。

(断面)

では、いただきます。

(パクっとな)

あ、美味しい。

驚いたことに味、香りともに牛肉そっくり。臭みはまったくないです。ただ、牛肉よりもぎゅっと詰まった感じの肉質で、噛めば噛むほど旨味が染み出してくる感じ。
「脂分が多めのビーフジャーキー」というのが一番イメージ的に近いかもしれない。

なにはともあれ、念願のナマケモノの実食に成功! 同物同治に基づくなら、これで私も怠け者です!

よーし、思う存分ぐーたらするぞ!!

▼▼▼▼▼▼

2日後

(まだアマゾンにいます)

ナマケモノを食べた後、急な大雨に見舞われてアマゾン支流のど真ん中で立ち往生することに。その間、寝袋にタランチュラが侵入すること2回、川に転落すること1回、襲い来る蚊の大群から逃げまわることエンドレスという修羅場の連続で、

ほとんど眠らず自分の命を守るために奮闘するハメに。

どう考えても日本にいるときよりも頑張りました……。

……今回の結論になります。

ナマケモノの肉を食べたところで怠け者にはなれません!

ていうか、

アマゾンで怠け者になったら死ぬ。

(ニノマ)
編集部おすすめ