ノスタルジーあふれる、昭和後期~平成初期の日本。
当時を生きてきた人も、そうでない人も、『あの頃』に思いを馳せる瞬間があるのではないでしょうか。
そんな時代を過ごした自身の記憶を手繰り寄せ、情緒のある出来事や風景を漫画に描きXで公開しているのが、『思い出漫画家』の仲曽良ハミ(@nakasorahami)さんです。
仲曽良さんにとっては、一家の長女である姉と過ごした幼少期も、よき思い出。
怒ると怖いけれど弟思いな姉との日々は、強く印象に残っているようで…。



母親からひどく叱られても耐え忍ぶ姉は、溜め込んだ怒りや悲しみを、仲曽良さんにぶつけることもあったとか。
カーテンに隠れてひっそりと涙を流すなど、弟に決して弱さを見せない姿は、仲曽良少年の目にたくましく映っていたようです。
『思い出漫画家』の仲曽良ハミさんに、創作のヒミツを聞いてみた
仲曽良さんがXに投稿しているエピソードの数々は、株式会社KADOKAWAから、漫画『しなのんちのいくる』として書籍化されています。2025年10月8日現在、第6巻まで発売中です。
grapeは仲曽良さんに、創作のきっかけなどについてインタビューを行いました。
もともと漫画を描くのは好きだったという、仲曽良さん。
昨今、SNSなどで作品を発信する作家が増えていることから「自分もチャレンジしてみたい」と思ったのが、漫画家を目指すきっかけだったそうです。
『しなのんちのいくる』は、自分の小学生時代の体験を元に作っています。
自分の思い出なので、これなら継続してたくさん描けると思い、描き始めようと思いました。

『しなのんちのいくる』では、しなのといくるの姉弟がメインに描かれています。
いくるのモデルはもちろん僕ですし、ほかは自分の家族がモデルになります。
ちなみにお姉ちゃんの『しなの』という名前は、新潟県および長野県を流れる信濃川からとりました。

また、仲曽良さんの描く絵柄は、親しみやすいタッチが特徴的。
作画や文字入れをする際に、特に意識していることがあるようです。
SNSを中心に作品を発表していますので、あまり描き込まず伝わりやすい絵柄になるように心がけています。
またセリフ文字も、スマホで読みやすいように、大きめに設定することが多いです。
個性的なキャラクターのほか、駄菓子店や町並みなど、ノスタルジーあふれる昔の風景が解像度高く描かれているのも、同シリーズのポイント。
「どんなものを資料として参考にしているのか」と疑問を投げかけると、こう返してくれました。
ロケーションは大体が僕の記憶を元にしていますので、実際に近所にあった駄菓子店や、自分の通った学校などを思い出して描いています。

昭和の時代と現代を比べて、感じることとは…
『思い出漫画家』がふと思う、昭和の時代の魅力とは…
昭和後期~平成初期の時代の日本を舞台に描いている、仲曽良さん。
令和の現代と比べた際、昭和の時代の「いいな」と思う点について聞いてみると、こんな回答がありました。
よく言われることですが、昭和の時代は地域の大人で子供たちみんなを育てている感じはありました。
僕も、当たり前のように近所の大人に怒られたり、お菓子をもらったりしていたのは、とてもいい思い出です。
書籍化に至るほど、たくさんのエピソードをXに投稿している、仲曽良さん。
もっとも反響がよかったエピソードについて、振り返ってもらいました。
作中に鬼塚さんという近所のおじいさんが出てくるのですが、『鬼塚さんの一日』というエピソードがとても反響がよかったのを覚えています。
このエピソードは個人的にも好きなので、第6巻に収録しました。読者さんにも喜んでもらえていると思います。

『鬼塚さんの一日』の冒頭のコマ
仲曽良さんが、漫画を描く上でもっとも大切にしているのは『あの頃をリアルに描く』こと。
「いいことばかりではなくて、怖かったことや理不尽だったことも描いていきたい」と、想いを明かしてくれました。

そんな仲曽良さんの想いが込められた漫画が、どのような人々に届いてほしいのかを聞いてみることに…。
昭和後期に小学生だった同世代の方に届けば嬉しいですし、その世代の人が育てた子供たちにも「昭和、平成はこんな時代だった」と伝われば嬉しいと思っています。
古きよき『あの頃』の日本が、当時を生きた人々のみならず現代の若者たちの目にも触れることで、新たな発見がありそうですよね。
最後に、『最近身の回りで起きた中で「誰かに共有したい」と思えるようなエピソード』について尋ねてみたところ、こんな出来事があったそうです。
事務所の隣のおばあちゃんから、メダカを3匹いただきました。モニターの前の金魚鉢で泳いでいます。
今のところ僕の漫画の最初の読者はメダカです。
気軽に『あの頃』にタイムスリップできる、思い出漫画
昭和後期~平成初期のいいことも悪いことも、タイムカプセルのようにギュッと閉じ込めた、仲曽良さんの作品。
仲曽良さんのXアカウントを開けば、きっとノスタルジックな気分になれるでしょう。
目まぐるしく情勢が変わり、古きよき日本の記憶を忘れてしまいそうになる現代こそ、ぜひ目に留めておきたい作品です!
[文・構成・取材/grape編集部]