“人間とは何か”を描き続けた、戦後の異才 ── 鴨居玲。没後40年の節目にあたる2025年、美術館「えき」KYOTOにて回顧展「見えないものを描く」が開幕する。

スペイン滞在期の代表作から、晩年の自画像や女性像、信仰を問う教会シリーズまで。その筆致から、人間の深層と対峙した芸術家のまなざしをたどる。

自画像、酔っぱらい、女性像 ── 人間の“心”を問うモティーフたち

本展は、鴨居が描いた多様な人物像の“背後にある心”を探る試みだ。「写実とは、見えないものを描くこと」。そう語った鴨居は、生涯を通して人間の内面を見つめ続けた。

金沢美術工芸専門学校で宮本三郎に師事し、フランス、ブラジル、イタリア、スペインなどの地を巡った彼は、「おばあさん」「酔っぱらい」といったモティーフに出会い、唯一無二の画風を確立していく。

本展では、初期から晩年までの「自画像」や、スペイン滞在時に描かれた「私の村の酔っぱらい」、帰国後に苦悩とともに取り組んだ「女性像」、無宗教の自身が信仰と向き合う契機となった「教会」シリーズなど、鴨居芸術において核となるモティーフを網羅。

人物を通して描かれた、心と心の関係 ── その核心に迫る展示内容となっている。

鴨居玲の“軌跡”をたどる原画と挿絵も

さらに会場では、作家・陳舜臣によるエッセイ『弥縫録 中国名言集』(週刊読売連載)のために描かれた挿絵原画も一部公開される。

加えて、模索期とされる1960年代以前の作品も紹介されており、鴨居がどのように画家としての理念を築き上げていったのかを、より立体的に感じられる構成となっている。

ギャラリートークも開催。鴨居芸術の“理解”を深める

6月14日(土)14:00からは、笠間日動美術館副館長・長谷川智恵子氏によるギャラリートークも実施予定。当日は美術館入館券のみで参加可能で、約45分にわたり会場内を移動しながら語られる鴨居の世界を体感できる。

“人間とは何か”を描いた画家に出会うために

鴨居玲の作品は、技法や構図を超えて、観る者に根源的な問いを投げかけてくる。

内面に迫る筆致、社会のなかで生きる人間の孤独と対話。没後40年のいまこそ、彼の絵が放つ“沈黙の叫び”に耳を傾けてみたい。

本展では、前売券や障がい者割引なども用意されている。静かな問いかけに満ちたその世界を、自身の目で確かめてほしい。

没後40年 鴨居玲展 見えないものを描く
会期:5月30日(金)~7月6日(日)※会期中無休
会場:美術館「えき」KYOTO(ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)
開館時間:10:00~19:30(入館締切は閉館30分前)
入館料:一般1,100円(前売900円)
美術館「えき」 公式サイト:https://www.mistore.jp/store/kyoto/museum.html

PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000388.000021989.html

(山之内渉)

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