最近、就職活動をしている学生らに対してWeb上で試験を受けさせる制度を利用している企業があります。
こういったWebテストは、企業にとっては大きなコストや時間をかけずに学生の能力を図ることができるというメリットがある反面、就活生としては自宅や学校で手軽に受験できるため、自分で受験せずに高得点が望める知人に頼んだり、複数名で協力して受験を行うという不正が横行しているようです。

このような、知人に頼んだり、複数名で協力して受験する行為は何らかの法に触れるのでしょうか。見ていきたいと思います。

こういったWebテストにおける不正について、何らかの犯罪が成立するのか?と言われれば、答えとしては「NO」ということになろうかと思います。

■犯罪となる替え玉受験やカンニングとは何が違うのか
Webテストの受験代行と類似するケースでいえば、いわゆる「替え玉受験」が連想されます。
替え玉受験の場合は、実際の受験者とは違う人物が試験会場に行って、受験者に成りすまして実際に私立学校の試験を受けることで「私文書偽造」という罪が成立します。
私文書偽造という罪は、他人の署名を使用して事実証明等に関する「文書」を偽造することで成立します。
替え玉受験の場合、替え玉となる人物が答案用紙に実際の受験者の氏名を書き入れ、答案という文書を作成することから、この罪が成立します。
しかし、Webテストの場合、署名(紙に自分の氏名を実際に書く)という行為を要しませんし、結果として何らかの文書を作成するわけではありませんので、私文書偽造の罪は成立する余地はありません。
また、過去に世間を騒がせた京都大学の入試におけるカンニングの事件では、偽計業務妨害罪によりカンニングをしたとされる少年が逮捕されました。
しかし、企業の採用に関するWebテストで不正を行ったということで、その企業の業務を妨害したとは抽象的にも評価しづらいと個人的には考えます。したがって、偽計業務妨害罪も成立する可能性は著しく低いと言えるでしょう。

■Webテストは重要視されていない?
僕自身、Webテストなるものを受験した経験がなく、見聞きした情報を元にお話しいたしますが、おそらくWebテストを受験する際には、「受験者本人が一人で解答するように」という趣旨の注意事項は明記されているはずです。

しかし、Webテストの性質上、受験代行や複数での受験を直接的に取り締まる術は有りません。そこで、そういった不正行為が横行してしまうのでしょう。
ただ、そういった不正が起こりうるということ自体は、学生を採用する企業としても監視を置いていない以上、ある程度は織り込み済みなのではないかとも思います。だからといって不正を推奨するわけではありませんが、Webテストで測れるような能力については、さほど重視していないと言わざるを得ないのではないかと個人的には思います。
もちろん、不正をせずに受験をしているまじめな学生からすれば、到底納得のいくもので無いことは言うまでもありません。

■内定取り消しにつながる可能性はある
不正が発覚した場合には不採用や内定取り消しの理由にはなり得ます。
そういったリスクがある以上、就活生は自分のためにもWebテストは正々堂々自分で受けるべきだと思います。
不正をして内定をもらったとしても、その先胸を張って生きていけるのか、そういった道義的な部分を自問自答していただければ、自ずと結果は出るのではないでしょうか。
就活生の皆さん、まだまだ厳しい時代だとは思いますが、自分の力を信じて正々堂々と、そして後悔の無いように最後まで頑張ってください。

*著者:弁護士 河野晃 (水田法律相談所。兵庫県姫路市にて活動しております。弁護士生活5年目を迎えた若手(のつもり)弁護士です。
弁護士というと敷居が高いと思われがちな職種ですが、お気軽にご相談していただけるような存在になりたいと思っています)
*Tokyo image groups / PIXTA(ピクスタ)