先日、女性芸人が週刊誌の取材に対して「ブスいじりのせいで婚期を逃した」と答えたという記事が話題になっていました。
記事では芸人である以上いじられてナンボという見方もできるとされていますが、芸人に対する「ブスいじり」について法的問題が生じないのかについて解説したいと思います。


●他人の容姿をけなす発言は違法になり得る
一般論としては、「ブス」、「デブ」などと他人の容姿をけなす発言は違法になることがあります。
たとえば、他人に対して「ブス」と繰り返し言うことは他人の人格権を侵害することになりますので、民事的には不法行為が成立するでしょう。また、職場等で「ブスだから婚期を逃さないようにしないと」などと発言したらセクハラとの評価を受けることになります。
刑事的にも、不特定または多数人が認識しうる環境下において、他人に対して「おまえはブス」、「深海魚みたいな顔しやがって」などと言うことは侮辱罪(拘留または科料)に該当します。

●女性芸人であることの特殊性
では、「ブス」であることを自身の武器にしている女性芸人の場合にも同様に違法になるといえるでしょうか。
まず、刑事的には不特定多数の視聴者が見るテレビ番組内で「ブス」ということは侮辱罪に該当します。
しかし、「ブス」を売りにしている女性芸人の場合は、ほとんどの場合テレビで放映されることに同意しているため、違法性がないという結論になるでしょう。
他方、プライベートで「ブスいじり」を受けた場合は一般人同様に侮辱罪に該当しますし、民事上も不法行為が成立するといえます。
いくら「ブス」を売りにしている芸人でもプライベートの場合にまで「ブス」と言われることを甘受しているわけではないといえましょう。
また、一般人の場合も、「ブス」に限らず他人を「いじった」場合、一見本人は嫌がっていないように見えても本心では気にしていることがほとんどですから、基本的に人の容姿を「いじる」ことは避けたほうがいいでしょう。

*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。
破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)