他の娯楽などと比べるとコンピュータゲームの歴史は比較的浅いものの、1970年代に本格的な動きを見せ始め、1980年代にはファミコンや様々な家庭用ゲーム機が登場。PC向けゲームと共に、日本のゲーム市場を盛り上げていきました。


そんな黎明期に産声を上げ、今も活躍を続けている名シリーズはいくつもあります。アクションならば『スーパーマリオブラザーズ』、RPGだと『ドラゴンクエスト』に『ファイナルファンタジー』など、枚挙に暇がないほどです。

30年を超える歩みを続けるシリーズ作はいくつもあり、今も高い人気を集めています。しかし、一人の主人公の活躍を30年以上に渡って描き続けてきたアクションRPGシリーズは、非常に稀です。時系列のある物語を同一主人公で描き続けるのは、かなり大変な試みなのは言うまでもありません。そして、32年もの歴史を持つ『イース』シリーズは、この例に当てはまる稀有な作品として知られています。

近年でも展開が続いているため、『イース』の名前を耳にする機会は少なくありません。ですが、長年に渡る本シリーズの歩みや、各作品については知らない方もいることでしょう。そこで今回は、最新作『イースIX -Monstrum NOX-』の発売を記念し、本シリーズの歴史を振り返ってみたいと思います。

◆アクションRPGと言えば『イース』! そんな時代を作り上げた『I』と『II』
画像は、PCエンジン版『イースI・II』です。
原点となった1作目『イース』が初めてリリースされたのは、1987年。赤毛の冒険家「アドル・クリスティン」が、始めてプレイヤーの前に姿を現しました。
昨今ではすっかり当たり前となった3D描写も、当時としては夢のまた夢。ドット絵で描くトップビューの画面構成で、アドルの冒険は描かれます。

ゲームシステムはシンプルで、基本は敵への体当たり。しかし、身体を半分ずらして敵にぶつかると有利な状態でダメージを与えられるため、シンプルながらもテンポと爽快感を両立したシステムで好評を博しました。また、ダメージを与えた時や撃破した際の効果音が非常に心地よく、耳から届く刺激が爽快感を倍増。この感触は、以後の『イース』シリーズ全般に渡って受け継がれていきます。

画像は、PCエンジン版『イースI・II』です。
1作目の『イース』と2作目の『イースII』は連作となっており、感覚的には前後編と言って良いほど。そのため、それぞれ単独でもリメイクを果たすと共に、『イースI・II』のようにセットとなったバージョンも複数登場しました。

そのセットの中でも特に衝撃的だったのは、PCエンジン版の『イースI・II』。CD-ROMだったため、その容量を活かしてビジュアル面が大きく強化。『II』のヒロイン・リリアの振り向くシーンでは、表現力の高さを見せつけ、多くのユーザーに衝撃を与えました。


画像は、PCエンジン版『イースI・II』です。
また、『イースI・II』の転機として押さえておきたいのが、リメイク作『イース エターナル』『イースII エターナル』のOP。この映像には、当時日本ファルコムに務めていた新海誠氏が関わっています。今や、日本アニメ界を代表する映画の一人として知られている新海氏ですが、その原点のひとつを『イース』の映像で窺うことができます。

イース30周年なんですね。おめでとうございます。このゲームに出会わなければ人生は今とはすこし違っていたかも知れない、というくらい好きでした。イース1,2 エターナルでOPに関わらせていただいたのが今でも夢のようです。 #イース #ys— 新海誠 (@shinkaimakoto) 2017年6月21日
心地よいアクションとストーリーを融合させ、ビジュアル面を含めた飽くなき挑戦を始めた『イース』。この勢いが、更なるシリーズ展開を迎えることになります。

◆3作目はサイドビューとしてデビュー!『イースIII -ワンダラーズ フロム イース-』

『イース』(1987年)、『イースII』(1988年)の展開を受け、3作目となる『ワンダラーズフロムイース』が1989年に登場。今現在とは作業環境なども異なるとはいえ、3年連続のリリースは見事と言えますが、驚きはそれだけではありません。


シリーズの展開と言えば、基本的なゲームシステムを受け継ぐものが多い中、この『ワンダラーズフロムイース』はゲームシステムに大きくメスが入り、サイドビューのアクションRPGに変更。『I』と『II』が実質的な前後編だったため、ある意味ではこの3作目が『イース』におけるシリーズ展開を決定付ける存在でもありましたが、この大胆な舵取りに当時のシリーズファンは驚きを隠せませんでした。

前2作を気に入っている方にとっては、大きな変化は受け入れがたく、賛否両論も呼んだ作品となりましたが、新たな刺激を与えるという点では、間違いなくその役目を果たしたと言えるでしょう。その結果、ファミコン版やスーパーファミコン版が登場したほか、2005年にはPS2版も発売。最初の『ワンダラーズフロムイース』から数えると、PS2版のリリースは16年を経るロングパスとなりました。

ですが、『イース』3作目の展開はまだ終わりません。『ワンダラーズフロムイース』を元に、トップビューのアクションRPGとしてリメイクした『イース -フェルガナの誓い-』が、PC向けとして2005年に登場。奇しくもPS2版と同年のリリースです。

サイドビューとして展開した『イース』の3作目は、後にトップビューの『イース -フェルガナの誓い-』という新たな装いを纏いました。ちなみに2010年には、『フェルガナの誓い』のPSP版も発売。3作目だけを見ても、実に長い道のりを歩んだことが分かります。

シリーズ中期を支えた『IV』~『VI』は、それぞれ独自の展開を遂げる

◆2作品が存在した『イースIV』、後の『セルセタの樹海』で一段落

シリーズ作の中でもかなり特徴的な展開を迎えたのが、4作目となる『イースIV』です。
というのも、『イースIV MASK OF THE SUN』(スーパーファミコン)と『イースIV The Dawn of Ys』(PCエンジン)が、それぞれ1993年の11月と12月に登場。これは単純なマルチプラットフォームの展開ではなく、同じ原案を元に作られた別々の作品なのです。

この2作品は共通する部分も多い一方で、ゲーム性の一部やストーリーで異なる面があり、その違いを直接確かめるという楽しみ方もできるほど。開発した会社が違えば、同じ原案でもこれだけ変わるのかと、実感できる出来事となりました。

こうして2作品の『イースIV』が生まれましたが、後にPS2ソフト『イースIV MASK OF THE SUN -a new theory-』が登場し、シリーズの展開としては『MASK OF THE SUN』に重きが置かれるようになります。更に2012年には、日本ファルコムが自ら『イース セルセタの樹海』(PS Vita)をリリース。流れとしてはリメイクですが、『イースIV』の名を冠する作品を日本ファルコムが直接開発したのは、この『セルセタの樹海』が初。ファンの中には、この『セルセタの樹海』の登場で『イース』シリーズの歴史がしっかり定まった、と安堵した方もいました。

今『イースIV』を遊ぶならば、前述のPS Vita版か、PS4に最適化された『イース セルセタの樹海:改』がお勧めです。ちなみに『IV』の時間軸は、『I』『II』の後で、『III』の前。ナンバリングと作品の時系列が一致していないのも、『イース』シリーズが持つ特徴のひとつです。

◆剣を振るアクションに舵を切った『イースV』! 新たな展開も切望

1993年に2作品が登場した『イースIV』に続く形で、1995年に5作目となる『イースV -失われた砂の都ケフィン-』が、スーパーファミコン向けにリリースされました。
スーパーファミコン向けの『イース』作品は複数ありますが、この『イースV -失われた砂の都ケフィン-』がシリーズ最後のスーパーファミコンソフトとなります。

これまで、『III』を除いて継承されていた“体当たり攻撃”を止め、「剣を振る」というアクションをベースにした『イースV -失われた砂の都ケフィン-』。更に、高低差を初めて導入し、ジャンプや盾による防御など、新たな要素を意欲的に搭載しました。現在主流になっている3Dバトルに、少し近づいた作品と言えるかもしれません。

その挑戦的な姿勢が評価された一方で、ゲームシステムにはやや甘い面もあり、惜しい点も見受けられる作品でした。しかし本作で挑んだ要素は、後のシリーズ作に色濃く受け継がれており、シリーズが迎えた転換期のひとつでもありました。

シリーズにおいて欠かせない作品となりましたが、これまでの『イース』シリーズとは異なり、プラットフォーム展開はおとなしめ。『イースV エキスパート』を含むスーパーファミコン以外には、『イースV -Lost Kefin, Kingdom of Sand-』がPS2に登場したのみ。『イースIII』や『イースIV』がリメイク済みの今、順番通りならば『イースV』がリメイクされてもいいはず。今後の動向に期待したいところです。

◆PCユーザーに長く愛され続けた『イースVI』

『イースV』が1995年に発売されましたが、ここからシリーズのナンバリング展開はしばらく休止となります。ファン待望の『イースVI -ナピシュテムの匣-』が登場したのは2003年と、約8年の時を経て続編のリリースを果たしました。


本作の躍進的な面のひとつとして、シリーズ初となる3D作品という点が挙げられます。今現在の活躍を見れば分かる通り、近年の『イース』シリーズは3Dで世界を表現し、迫力溢れるバトルを描いています。その表現の第一歩は、この『イースVI -ナピシュテムの匣-』が刻みました。

攻撃手段も、「ジャンプ斬り」「突き」「ダッシュ斬り」「ダッシュジャンプ斬り」などが追加され、立体的なバトルを更に盛り上げます。また本作は、3本の「エメラス剣」を使いこなして戦うため、剣士としての楽しさがより強く感じられる作品でもありました。

前作の『イースV』と合わせ、近年のシリーズ作に大きな影響を与えた『イースVI』。こちらも『イースV』と同様、プラットフォーム展開は割と控えめでした。その反面、PC版は後のOSに対応したバージョンが続々と登場し、Windows 8までフォローされています。PCから始まった『イース』シリーズの中でも、特にPC向けに活躍したタイトルとして印象深い作品です。

近年の『イース』作品で、アクション性が大きく進化! JRPGの底力を見せつける

◆イースアクションを大幅に進化させた『イースSEVEN』! 展開の少なさが寂しい・・・

『イースVI』の後に『イース・オリジン』(2006年)が挟まったため、ナンバリングの続編となる『イースSEVEN』が登場したのは2009年。これまで、『IV』と『V』を除いては、PC向けのリリースが最初でしたが、この『イースSEVEN』はPSP向けに登場しました。

3D表現をより進化し、戦闘のテンポも更に向上。また、シリーズ初のパーティプレイを導入し、戦況に合わせて操作キャラを切り替えることでバトルを有利に展開できます。各キャラはそれぞれ「斬撃」「打撃」「射撃」の属性を持ち、敵の弱点に合わせたキャラクターチェンジが勝利の鍵に。

このパーティプレイの採用で、バトルの戦略性が増し、多彩なキャラを使い分ける新たな楽しさが盛り込まれました。このシステムも、後の『VIII』や『IX』に継承されており、ゲームシリーズを通してみると、様々な作品が後の展開に影響していることが窺えます。

爽快感・テンポ・手応えなど、全てが心地よく進化した『イースSEVEN』。ですが、本作もかなり展開はおとなしめで、後発のPC版があるのみ。シリーズの中では比較的最近の作品ですし、PC版もあるので、リメイクされる見込みはまだ先の話になりそうです。

◆ゲーム性と物語が高いレベルで融合! シリーズの貫禄を見せつけた『イースVIII』
画像はPS4版です。
数あるPSPソフトの中でも、指折りの名作アクションRPGとして評価された『イースSEVEN』。ですが、シリーズのナンバリング展開はここでまた間隔が空き、PS Vitaソフト『イースVIII -Lacrimosa of DANA-』の登場まで約7年の時間を要しました。

本作のバトルは、通常攻撃やスキルを併用して戦い、回避やダッシュ、ジャンプを駆使するハイスピードな3Dアクション。これまでのシリーズ作の魅力を受け継ぎつつ、順当な進化を遂げました。もちろん、心地よい効果音やエフェクトも継承し、アクション面については成熟さを目指す形になっています。

画像はPS4版です。
そこに、島全体を舞台とした探索要素が加わることで、これまでにないボリューム感の「冒険」を提供することに成功。村に合流したメンバーの人数次第で行ける場所が広がっていき、探索が更なる探索を呼ぶ広がりが、プレイヤーの冒険心を心地よく刺激します。

さらに、本作のもう一人の主人公とも言えるダーナの存在が、物語への訴求力を強め、アクション・ゲーム性・ストーリーのいずれもが高いレベルで融合した作品に。多くのユーザーから支持される名作として、高評価を博しました。

画像はPS4版です。
本作のちょっと意外な展開としては、当初からPS4/PS Vitaへのリリースが発表されていましたが、一足先にPS Vita版が2016年に登場。そして約1年後にPS4版がリリースされましたが、単なるマルチプラットフォーム展開ではなく、PS Vita版と比べて様々な新要素が加わっています。その後、更にPC版やニンテンドースイッチ版が登場したのは、『イースVIII -Lacrimosa of DANA-』が持つ人気の高さを裏付ける証拠と言えるでしょう。

画像はPS4版です。
ちなみに、今『イースVIII -Lacrimosa of DANA-』を遊ぶとすれば、今年の6月にスーパープライス版が発売されたPS4版が、コストパフォーマンスを考えると一番優れているのでお勧めです。

多くのファンを抱えるアクションRPGながら、時には挑戦的なゲーム性に挑み、ハードの性能向上と共にゲームとしての表現を追求するなど、たゆまぬ進化を続けてきた『イース』シリーズ。また特定の作品に限らず、シリーズ全般に渡ってBGMも素晴らしく、目だけでなく耳に届く刺激も非常にハイレベルです。こうした魅力を積み上げてきた結果、30年を優に超えながら、今もゲーム業界の最先端で活躍するコンテンツへと成長しました。

『イース』の名を冠する作品は、『イースvs.空の軌跡 オルタナティブ・サーガ』や前述の『イース・オリジン』もありますが、未経験の方はまずナンバリング作品に手を付けてみてはいかがでしょうか。『I』『II』を除いて、基本的に1作品でひとつの話が完結しているので、どの作品から遊んでも問題ないのも魅力のひとつ。9月26日に発売されたばかりの最新作『イースIX -Monstrum NOX-』から始めて、アドルの足跡を過去に向かって辿ってみる──といった楽しみ方も、一興かもしれませんね。

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