その後、日本でもRPG作品が生み出されるようになり、『ドラゴンクエスト』などのファミコンソフトが一大ブームを巻き起こしました。作品によって目的や世界観は異なりますが、ファンタジー世界が舞台となり、主人公は勇者となって敵と戦い、魔王などのボスを倒して世界を救うという形が主流でした。
フィールド上に出現する様々な敵を打破し、経験値を稼いでレベルアップ。ダンジョンや街中、時には住民の家の中を探してアイテムを獲得することもあります。そんな“RPGのお約束”を多くの作品が受け継ぎ、それらの要素は最新の作品にも見受けられるほどです。
しかし、この“RPGのお約束”に一石を投じ、新たな可能性を切り開いた作品も多数ありました。その中でも特に知られているのが、1997年10月に発売されたプレイステーションソフト『moon』です。
「なぜ勇者は世界中のモンスターを皆殺しにするのか?」「なぜ勇者は勝手にタンスをあけて人の家からアイテムを盗むのか?」といった“RPGのお約束”と向き合った『moon』は、敵を倒して得られる経験値ではなく、「ラブ」をゲットする「ソウルキャッチ」でレベルアップ。勇者に殺されたモンスターの魂を救いながら、この世界の謎へと迫ります。
これまでのお約束に満ちたRPGとは大きく異なり、新たな視点を切り開いた『moon』は、その斬新なプレイ体験で多くのユーザーから支持を獲得。需要に対して供給が追いつかないほどの人気を見せ、気になるけど遊べなかったユーザーも当時多数いました。
そんな『moon』が22年の時を経て、本日10月10日に、ニンテンドースイッチ向けソフトとして復活! 完全移植を果たした本作が、最新ハードで蘇りました。
ですが、“RPGのお約束”にアプローチした作品は、『moon』だけではありません。モンスターと戦わなくてもいいRPGとして『Undertale』が人気を博したりと、近年でも数多くの作品が新たな可能性に挑んでいますが、そういった動きは『moon』発売当時にも見られました。
そこで今回は『moon』が発売された1997年に注目し、“RPGのお約束”に挑戦した作品や、当時を代表する大作RPGに迫り、当時のRPG事情を振り返ってみたいと思います。
◆『ファイナルファンタジーVII』:1997年1月31日 発売
“RPGのお約束”に挑戦した作品に迫る前に、まずは1997年を代表する大作RPGを紹介したいと思います。この年に発売されたRPGは数多くあるものの、知名度や販売本数、そして後のRPG業界に大きな影響を与えた作品と言えば、この『ファイナルファンタジーVII』(以後、FFVII)を外すことができません。
ファミコン時代に始まった『ファイナルファンタジー』シリーズは、1作目の時点から意欲的な姿勢を見せていました。RPGとして面白いのはもちろんのこと、当時からグラフィック面を磨き続け、ドット絵ながらもこだわりのあるビジュアルでユーザーを魅了しました。そのスタイルは『II』移行も受け継がれ、スーパーファミコン最後のナンバリングタイトルとなった『ファイナルファンタジーVI』のドット絵は、美麗を極めた職人芸と称しても過言ではないほどです。
そんな『ファイナルファンタジー』シリーズは、『FFVII』で大きな節目を迎えます。ハードがプレイステーションに移ったことで、グラフィックの方向性が一新。それまでのドット絵ではなく、3DCGを駆使した作品となりました。
表現方法こそ変わりましたが、過去作と同様に最先端のグラフィックを追求した『FFVII』は、ストーリーやキャラクター陣の魅力も高く評価され、『ファイナルファンタジー』シリーズの今後に影響を与えるほど、その成功は大きなものとなりました。
グラフィック表現の最前線に挑み続けながら、RPGの王道のひとつに数えられることも多い『ファイナルファンタジー』シリーズ。その中でも指折りの成果を成し遂げた『FFVII』が、『moon』と同じ1997年に発売されたという事実は、RPG史という観点から見ても非常に興味深いポイントと言えそうです。
世界を救わなくたっていい! 卒業するために頑張るRPGが登場
◆『マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士~』:1997年5月23日 発売
“RPGのお約束”に一石を投じた作品として、『マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士~』を思い出す方もいることでしょう。シリーズ最新作『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』が2019年9月に発売されたばかりですが、シリーズの原点と言える『マリーのアトリエ』が登場したのは、『moon』と同じ1997年でした。
当時主流だったRPG作品と同じく、『マリーのアトリエ』の舞台もファンタジー世界。ですが、「魔王を倒して世界を平和にする」といった一般的なRPGの目的とは大きく異なっており、主人公・マリーの目標は“落第の回避”。アカデミーで錬金術を学んでいるマリーは、しかし成績が振るわず、卒業を目指すべく5年に及ぶ試験に挑むこととなります。
『マリーのアトリエ』には敵とのバトルやレベルアップもありますが、主軸となるのはタイトルにもある通り「錬金術」。寄せられる依頼の解決や、新たなアイテムの作成、なにより卒業を目指すために必要なのは、その錬金術の腕前に他なりません。
ドラゴンのような手強いモンスターと戦うこともできますが、それはあくまで手段のひとつ。
勇者にならず、世界も救わないRPG。そんな『マリーのアトリエ』が踏み出した一歩は、22年続く人気シリーズへと結びつきました。もちろん、この先も更なる展開が『アトリエ』シリーズに訪れることでしょう。“RPGのお約束”に挑んだ結果、そこから新たなRPGシリーズが生まれ、見事な大輪を咲かせたのです。
敵と戦うだけが「冒険」じゃない! RPGの楽しさを「探索」で表現
◆『ネオリュード』:1997年5月9日 発売
“RPGのお約束”に挑んだ1997年のRPGとして、『moon』や『マリーのアトリエ』と並んで外せないのが、この『ネオリュード』です。本作も舞台はファンタジーで、3人の主人公はいずれも冒険者。そして冒険者らしく、謎に満ちたダンジョンを突き進みます。
そんな本作が、“RPGのお約束”に対してアプローチしたのが、レベルアップの手段です。RPGなのに戦わない『moon』は、ラブをゲットすることでレベルアップしましたが、『ネオリュード』は敵とのバトルがあります。しかし、バトルで得られる経験値は微々たるもの。
では、『ネオリュード』がどのような手段でレベル上げを行うのかと言えば、それはずばり「探索」。ダンジョンに置かれた調度品や宝箱、ギミックなどをチェックすることで経験値を入手し、それがレベルアップへと繋がります。
冒険といえばつい「モンスターとの戦い」を想像しますし、RPGにおけるダンジョン探索の多くは、マップを踏破して置かれている宝箱からアイテムを獲得。そして最奥にいるボスを倒してクリア、というものが大半でした。
しかし本作における冒険は、ダンジョンの探索が主体。冒険者の生業として、実に本来的であると言えます。ダンジョンには敵も登場しますが、雑魚との戦闘は回避が可能。ゲームクリアにはボスとの戦いが欠かせないものの、そのためのレベルアップはダンジョン探索だけで賄えます。
また「探索」は、チェックすればいいだけではありません。3人の主人公はそれぞれ得手・不得手があり、その長所を生かせるキャラクターでチェックすると、獲得経験値がより大きくなります。この選択やギミックの見極めが、『ネオリュード』の核とも言える部分。
モンスターではなくダンジョンそのものと向き合い、思考とひらめきがレベルアップに通じる『ネオリュード』。雑魚敵との戦いを必須としないゲームデザインは、これまでのRPGとは一線を画しており、RPGの裾野を更に広げた作品のひとつと言えます。
このプレイ体験が好評を博し、後に『ネオリュード2』『ネオリュード ~刻まれた紋章~』といったシリーズ化も実現。3人の主人公をプレイヤーが導くリーディングRPGは3部作を展開し、RPG史にその歩みを刻みました。現在、ゲームアーカイブスで配信されているので、興味が湧いた方は直接プレイしてみてはいかがでしょうか。
お約束に挑んだアンチRPG『moon』が発売された1997年は、RPGを代表する大作のひとつ『FFVII』が発売された一方で、世界を救わない『マリーのアトリエ』や、「探索」で冒険を表現した『ネオリュード』など、RPGの新たな可能性を模索した作品も複数登場した年でした。
このほかにも、『サガ』シリーズの新展開『サガ フロンティア』(1997年7月11日)、竜をテーマとしたRPGシリーズの3作目『ブレスオブファイアIII』(1997年9月11日)、チョコボが主役のローグライクなRPG『チョコボの不思議なダンジョン』(1997年12月23日)なども、同じ年に発売されています。当時、どのようなRPGがゲーム業界を賑わせていたのか。そんなことを考えながら『moon』を遊んでみると、新たな発見が生まれるかもしれません。この秋の夜長を、未体験のRPGと共に過ごしてみてはいかがでしょうか。
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