突然ですが、かねてより気になっていた方とエンゲージしました。

お相手の方の第一印象は、オブラートに包まず言うと不安しかありませんでした。
しかし、同じ時を過ごしていくにつれ良いところも悪いところも見えてくるようになり、いつしかそんな二面性に夢中になっておりました。今となってはかけがえのない存在です。本日は、そんな彼の魅力をご紹介させていただきたく思います。

「エムブレム・エンゲーーージ!!!」

2023年1月20日、あの大人気『ファイアーエムブレム(以下、FE)』シリーズの新作『ファイアーエムブレム エンゲージ』が発売されました。

同年4月5日にはDLC第4弾“邪竜の章”も配信開始となり、展開の完結を迎えた本作。歴代の主役キャラクターが総出演し、地味なシミュレーション要素を大味にした新要素が見どころのシリーズ最新作です。


筆者はシリーズの大ファンで、いわゆる「エムブレマー」と呼ばれる人間になります。全作品プレイしており、特に好きなタイトルは『聖戦の系譜』です。

おっと、「聖戦のファンは厄介」と思ったそこのアナタ。筆者も例外なくその通りです。ファンでありながら、大好きだからこそいつも新作のどこかに物申している。めんどくさい人だなぁ……。

そう、筆者と『FE』シリーズは絶対に別れない倦怠期のカップルそのもの。

そんな厄介ツンデレエムブレマーが『エンゲージ』を素直に手放しで、期待だけを抱いて発売日を待つことなどできただろうか?答えは皆様の予想通り「否」、となります。

しかも、発売前情報が出れば出るほどありとあらゆる要素に不安を感じてしまい、挙句の果てには発売の2日前に急遽予約を……キャンセルしています。ゲーマーにあるまじき事態です。予約開始すぐに「Elyos Collection」なる名を冠する数量限定の豪華セットを予約していたにもかかわらず、です。

だがしかし、発売1週間後にはswitchに入っていました。
DLCは購入するかわかんないからね!なんて言っていたのに中盤に入る頃には買っている……。しかも家にはちゃんと「Elyos Collection」がある。

ツンデレ、チョロい!

そんなシリーズ最新作である本作を、発売から1年が経過した今だからこそレビューしたい!でもただでさえ有名なタイトル、もう評価も出尽くして、今更語る必要なんて、ないかもしれない……。

そう考えましたが、筆者自身が長年のシリーズのファンで『エムブレマー』を名乗りながら、実は友人の厄介エムブレマーから聞いた活きの良い悲鳴がきっかけで本作の購入を決めた一人。この系譜を受け継いでいかずに、どうするというのか。今だからこそ言えることもあるよね。


結論から言うと、この作品、とっても古臭くて新しい「手強いシミュレーション」なんです。このワードにピンときた方、長年のエムブレマーではありませんか?そんなまだ購入していないエムブレマーのアナタに届くことを願って。軽いんだけど、軽くないんです。

年季の入った厄介ツンデレたちに、『エンゲージ』の聖戦を系譜したい。そのためにこの記事は生まれました。なぜツンデレがデレデレになったのか?その真相を探るためにも、ぜひ一読ください。


※この記事には致命的なものはありませんが、ストーリーの大まかな流れに関するネタバレが含まれています。ご注意ください。

◆前作が築いた骨太シナリオとのギャップ
この記事をご覧になっている方の中には『エンゲージ』でよく上がっている不評点をご存知の方も多いのではないでしょうか。そう、それは本作のシナリオについてです。

待望の発売日には、重く深いお話が繰り広げられた前作である『風花雪月』がトレンド入りしましたが、これは『エンゲージ』における軽めなシナリオとの比較が随所でなされたからでもありました。筆者も今回レビューを書くにあたり改めて方々の評価を見させていただいたのですが、シナリオに関する評価は全会一致と言っても過言ではないものだと感じました。


……か、軽いね?

一応同じセリフを抜粋したものの、画像のチョイスに悪意があるって言われそうなんですが、本当に温度差はこれぐらいある。大分ノリが違うことがわかります。

前作はプレイヤーの選択により物語開始早々からルートが分岐するため、一周のみのプレイだとある一点の視点からでしかシナリオを理解できません。世界観を俯瞰するには何周もする必要があります。しかしながら、周回プレイを苦痛にさせない徹底されたテキスト表現・ストーリー展開という魅力がたちまち広まり、多くの新旧ユーザーから高い評価を受けました。

そんな『風花雪月』の後に出るんだから、新作にも『風花雪月』みたいに重いストーリーを期待していたらそりゃ落胆するというもの。

では『エンゲージ』のストーリー展開ですが、こちらはゲーム開始早々に、分岐ではなく求婚されます。

その直後には『覚醒』をプレイされた方は「あっ、トロン刺されそう」と思うシーンや、『if』のプレイヤーは「ルミエル(主人公の母)死にそう」など予想できてしまう、過去作を彷彿とさせるどこかで見たような展開が続きます。

先が予想できるし本当にその通りになるのだから、これではより戦いが苦しくなるはずの今後にも、はじめから期待を寄せられない浅薄なシナリオと言えてしまうでしょう。

本作は、キャラクターのモデリングと、アニメをオフにする必要がないぐらいスピーディーな戦闘アニメーションに関しては、間違いなくシリーズ随一です。

今をときめく人気イラストレーター・Mika Pikazo氏がキャラクターデザインを担当し、またモデリングも直々に監修されたということもあり、ヌルヌル動くし表情もはっきり見える。しかもお着替えまでできちゃう。

因みに筆者の推しは「ロサード」と「メリン」になります。性癖がバレそう。

しかし長所と短所はいつだって表裏一体。モデリングが良すぎて目立つからこそ、シリアスなシーンなのにオーバーな動きと一緒に出てくるカジュアルなセリフ回しで、なんだかちぐはぐに見えてしまうのです。

本作の魅力には、なんといっても豪華キャスト陣による「フルボイス」が上げられますが、これが逆に不自然なセリフ回しをより印象付ける要因になっているのです。この点は実にもったいないと思っています。せっかくの良い要素が悪い部分に全部食べられちゃうんですよね。

そう、もったいないのです。発売前は筆者含め、周囲に居る拗らせエムブレマーが声を揃えて「ストーリーやばそう」と言っていました。事実やばいのに、なぜもったいないのか。

プレイするまでにわかる情報といえば、ネタバレを避けようとすると大体公式サイトがプロモーションがとして小出しにしている序盤の情報に偏ります。筆者はまんまとこの罠にハマり、発売前にあろうことかキャンセルしてしまったクチです。モデリングとアニメーション以外期待する要素ないじゃん、とまで思っていました。

『エンゲージ』は、プレイヤーを引き込む入り口となる序盤で、むしろ振り落としているような状態です。もったいない。その入り口をこじ開けることこそが、この記事の目的。

どこがどう悪いという点は、もうこの記事に辿り着いている方には耳タコかと存じますので、後発レビューの利点を活かしあえてここでは細かく触れません。筆者も同じことを考えています。

とはいえシナリオを総合的に見ると、散々言われてるほど変じゃないとだけ言わせてください。決して褒め言葉を羅列できるものではないですが、ある一点のタイミングで流れが変わります。なかでも敵軍同士のやり取りがうかがえる場面があるのですが、そちらは強く記憶に残っています。

全体的に良くも悪くも王道です。ただ王道故、使い回された展開の予想できるストーリーは飽きが来るし、良い評価は付随しません。本作は、シナリオの評価が独り歩きしているせいで、SRPGプレイヤーを取り逃している点が非常に惜しい一本でしょう。

◆ツンが瓦解するシミュレーションパート
さて、ここまで短所を述べてきましたが、ツンツンした後はデレるのがお約束ですね。ここからはデレデレでいきます。本作『エンゲージ』は、見事に人が持つ天邪鬼性を突いてくる一本であったといえましょう。筆者は完全に落ちました。

ライトなストーリーに反して戦略の組み立てがめちゃめちゃハードで頭使う。戦闘面は歴代屈指のバランス、爽快感です。

筆者は『エンゲージ』を初見「ルナティック&クラシック」、作中最高難易度で始めました。当然、最初から最後まで大変難しく、何度もコントローラーを文字通り投げそうに。ですが、これがたまらない。絶叫アトラクション。もしかして自分、Mブレマー…ってコト!?

SRPGといったゲーム性自体は変わらないのに、『エンゲージ』の戦闘がシリーズでもずば抜けて面白く感じた理由のひとつとして、初見を「ルナティック」で遊んだからという点が大きいかもしれません。というか、積みポイントがないから初見でも「ルナティック」でクリアできたので、印象が良いんです。

本作では、2周目以降特典でゲーム開始時にRPGの醍醐味である成長システムが「固定」か「ランダム」を選択することができます。しかし、「ルナティック」だけは1周目から強制で「固定」となっており、ユニットのパラメータが期待値通りの数値となります。

『烈火の剣』以降の『FE』では、大方どのユニットを選んでもクリアには支障のないラインまでは育ってくれるように調整されているのですが、それでも注力していたユニットが運悪くへたれてしまうと、最悪積みます。他のユニットを育て直すにも、高難易度では容易ではありません。

そんな積み要素を一掃するのがこの「固定」成長システム。初見「ルナティック」とのシナジー効果は抜群といえましょう!2周目からは「ランダム」成長を選択できるし、一粒で二度おいしい。

また「ルナティック」といえば、何かしらプレイヤーだけが圧倒的に不利な初見では対応不可能なハートブレイクポイントがあります。前作『風花雪月』の「ルナティック」で例えると、何もないところから突然現れ、ジェット機のような進軍速度と火力で荒らしていく増援即行動のペガサスナイトなどが当てはまるかと思います。『エンゲージ』はこの増援即行動がなく、出勤してすぐブレイクタイムを与えるホワイト企業となっています。

とはいえ『Echoes』以降、近年の『FE』では一手を巻き戻す令和っぽい便利機能があります。これでやり直しはスムーズに効きますが、違う、そうじゃない。こんなの絶対に巻き戻し機能使わないと突破できないだろ!というようなことが毎ターン起きる。そんな心が折れる理不尽初見殺しからなるストレスは、『エンゲージ』では一切感じません。

ついでにTIPS感覚で差し込むのですが、この便利な「竜の時水晶」は途中で失います。巻き戻しがないって、それもう昔の『FE』じゃん。

そして、手強いシミュレーションに飢えたエムブレマーを黙らせた注目すべき新要素として、『FE』では聞き慣れない単語である「ブレイク」、「チェインアタック」というものがあります。どちらもリュール(男)と同じ声がする大作RPGで聞いたことのあるワードな気がしますね。

まず「ブレイク」。こちらは大半の『FE』で採用されている、「三すくみ」システムをさらに強化したものとなります。

相手より有利な武器で攻撃したら相手が「ブレイク」、つまり行動不能になる単純なシステム。自ターンで敵に決めることができたら途端に有利になる、積極的に狙っていくべきものです。

しかし、いざ敵ターンになると、どこで誰がブレイクを取られるか咄嗟にわからないものなんですよね、これが! 従来、三すくみは命中率に差が出るのみでしたが、今作は常に武器相性を踏まえた上で相手の行動を予測していかないといけません。反撃不能になっている間に自軍は大きく不利な局面に傾いてしまいます。「ブレイク」の登場により、大きくシミュレーション性が上がったといえるでしょう。

こちらは「チェインアタック」。ご覧のように、攻撃範囲内の味方ユニットが戦闘に参加し、敵のHPを削ってくれるという『覚醒』の「デュアルアタック」に似たシステムです。「デュアルアタック」と異なり、今作は味方だけでなくしっかりと敵も使ってくるのでバッチリ平等です。

たっ、足りない!1足りない!!思わずアイビー王女も苦い顔。でもこちらには仲間がいるのよ、RPGだもの。これが絆の力だ!

なんとチェインすることで、『FE』によく出没する妖怪「1足りない」を撃退できるのです!上手くユニットを配置する必要があるので、決まった時は最高に爽快な気分になれます。

これらの新要素は過去作に搭載されていたシステムを、より明確に強化したものといえます。新しいのに、新しいわけじゃない。

また、個人的にすごく評価したい点なのですが、ちゃんとアーマーが固くて頼りになるバランス。そうそう、こういう古臭い『FE』がやりたかったんだよ!反面、主人公が非力な点も、紋章士として参戦している「マルス」や「ロイ」を彷彿とさせます。久し振りの感覚です。

ですがこんなに固い彼も、守備貫通の「チェインアタック」の前では無力。重装だからブレイクも効かないし、よし、とりあえずルイで塞ぐか!と安易な戦略を組み立てると、チェインが飛んでくることを見事に忘れ、撤退セリフを耳にすることに。

回避性能に優れたユニットを壁に使うという手もありますが、ブレイクは避ければ無効なもののチェインアタックは当たります。このように、従来の『FE』で定番だった待ちの戦法が通用しないのです。これはシリーズプレイヤーだからこそハマってしまう罠ではないでしょうか。エムブレマーならではの新鮮な悲鳴、お待ちしております。

RPGでよく言われる「レベルを上げて物理(金)で殴れ」は、『FE』シリーズでも例外ではありません。しかし、これも古臭い『エンゲージ』なら…もうお分かりですね?通用しません。

その理由として、軍資金と経験値(EXP、スキルポイント)がとにかく渋い。いやもうフリーマップ機能してないんじゃないかというぐらい渋いです。闘技場も無いし。全然増えない。やり込み勢からすると、拠点投資やら育成やらでずっと足りない。まさしく戦時中。

これだけ書くとケチくさいだけでデレるポイントが何も見えてこないのですが、これがまた、シリーズ屈指の鬼畜と言われる『トラキア776』を味わいしゃぶり尽くしたエムブレマーからすると、なんか古い『FE』が帰ってきた感じしてたまんない。喜びを感じる。ありがとうございます。やっぱりMブレマーかも。心がふたつある~~。

◆僕とエンゲージして特撮ヒーローになろうよ!
さて、文章の勢いも乗ってきたので、これは外せないという本作の売りポイントかつ悩みのタネでもあった新要素をここで紹介しましょう。視覚的な情報だけで強いしホントに強い新要素が、タイトルにもなっている「エンゲージ」システム。

こちらは上述したストーリーでもキーを担っており、ド派手で非常にわかりやすい、まるでニチアサの特撮のような変身技となっています。派手=強そう、いや強い。

ご覧ください、この必殺技が繰り出す真っ赤な射程。700ヤードから狙撃するスナイパーにだってなれるんだ!

筆者は、プレイするまではこの派手かつバランスブレイカーのような「エンゲージ」システムに対して不安しか抱えていませんでした。そう、ストーリーよりも、です。だって、全然見た目が硬派じゃないじゃん!硬派な『FE』がやりたいんだけど!?……しかしその不安が的中したストーリーと相反して、このシステムには良い意味で裏切られることになります。

今この目の前の敵を倒さないと倒されるのに、火力が足りない!手数が足りない!…そんな状況に陥ること、『FE』シリーズではよくありますよね。打開策を見つけ出すことはかなり難しいです。

しかし、絶望的な状況を現状打破してくれるのが、歴代キャラと同化して変身する「エンゲージ」です。殺られる前に殺れ。

ピンチをチャンスに。その姿はまさに遅れてきたヒーロー。ニチアサ、始まりました。早起きして偉い!

硬派だ軟派だなんだの言っていたあの厄介エムブレマーはもう居ません。ボジョレーヌーボーが解禁された時のような表情をしながら、「エンゲージ」技で暴れていきましょう。気持ち良い!

暴れるとはいったものの、この大味な新要素は当然何度でも使えるわけではなく、戦闘数をこなしていくことでカウントが溜まり能力を開放、という流れです。任意に変身できるので、使う場面を見極める必要がある、プレイヤーの技量が問われるものとなっています。

ストーリーの進行に応じて指輪は増えますが、こちらの戦力増強に比例して敵も強くなっていきます。毎回ゴリ押しできるというわけではないので、難易度に飢えている方もご安心を。また適正はあるものの、例えば後衛ユニットが前衛ユニットになれたり、「エンゲージ」相手によってユニットの性能が激変するという育成要素も取り入れています。

ですが、こんな便利な指輪に頼りっぱなしにさせてくれないのが本作。ストーリー道中ではなんと驚き、指輪を全没収されてしまいます。絶望、そして絶望!お、お慈悲を…。一応、DLCの紋章士は残ってくれるのですが、DLCマップ自体の難易度が高すぎて没収までに入手できた方は少ないのではないでしょうか。

その上、奪われた指輪は全て敵が使用してきます。もちろん、こちらも敵から指輪を取り返して進軍しているので、最序盤から敵が指輪を使ってくることは理解しているのですが…まさか手に入れたものが没収されるなんて思わないだろ!

初心忘るべからず。指輪も増え、「エンゲージ」の強力な力を理解、使いこなせるようになったというタイミングで失うので、ニチアサすることを前提で組み立てていたこれまでの戦略が全て崩壊します。あたかもプレイヤーサイドだけが使えるド派手演出持ち必殺技!という風貌なのに使用不可になる。敵、しかもボス級じゃない一般兵までもが奪われた指輪を使ってくるわけです。恐ろしいけども意外性があり、とってもワクワクしますね。

だがしかし、何かを得るには何かを失わなければならないのが王道。急にニチアサから少年漫画になってきました。

そう、指輪を犠牲にしたところから、シナリオのギアが上がっていきます。これが上述していたストーリーの流れ変わるぞと言っていたポイント。ニチアサ演出を失って手に入れたものは、熱い少年漫画展開だったのです。

そんなニチアサ×少年漫画のハイブリッドスーパーエースである期待の新人『エンゲージ』ですが、現在月刊誌「最強ジャンプ」とマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」にてコミカライズ版が連載中です。やっぱり少年漫画じゃないか!

こちらでは本編のストーリーやキャラクターの心情描写がより掘り下げられており、本作の世界観を深く知るためには必携です。筆者は第6話のユナカ氏が大変お気に入りです。

プロローグでのリュールの顔で性癖をぶっ壊してくる美麗な作画で繰り広げられるこちらのコミカライズは、プレイ前でもプレイ後でも読める内容となっております。『エンゲージ』が気になった方は、今すぐアクセスして要チェック!

◆泣かすなアレンジBGM
新作が出る度に、一手を長考するからこそ何分聴き続けても飽きない良質なBGMを味わえる『FE』シリーズ。ツンデレエムブレマーな筆者ですが、BGMに関しては毎回手放しで絶賛しております。本作も例外ではなく、筆者がレビューの中で一番力強く述べたい点はBGMに関する記述かもしれない、というぐらいに刺さっています。ベタ褒めのデレデレターンはまだ続くのじゃ。

本作の舞台は緑豊かな明るい草原、辺り一面砂の国、一方で厳かでシリアスな城内など様々なマップが用意されている「エレオス大陸」です。ポップな雰囲気溢れる本作ですが、暗いマップは暗い。多数あるBGMの曲調も、踊りだしたくなるような軽さがある反面、重厚感があったりと緩急差が激しいのですが、どの場面で流れるBGMも見事にマッチしています。筆者の趣味にもマッチしたので、サウンドテストが楽しめることを良いことにいまだに毎日「砂塵と爛漫」をエンドレスで再生中。

また、おまけのような要素なので忘れがちなのですが、拠点「ソラネル」で選べる各マップのアレンジBGMは一聴の価値ありです。

何より外伝マップで流れる歴代ステージのアレンジBGMが本当にたまらない…!!シリーズ全部やってきてて良かった!と強く実感しました。どれもこれも原曲の良さを失わず、本作の雰囲気に合わせたアレンジになっています。外伝マップが開幕した瞬間にスタンディングオベーションしました。

再現度の高いマップでただでさえ感動しているのに、戦闘開始と同時に流れるアレンジBGM…もう男泣きです。甲子園で敗北して土を持ち帰ったあの日までもが蘇ってくる……。甲子園出たことないけど。

シリーズファンに対しては、アレンジBGMのためだけに購入しても良いと断言できるほどには優れています。

『FE』は『大乱闘スマッシュブラザーズ(以下、スマブラ)』シリーズでもお馴染みで、そちらでも多くのBGMがアレンジされてきました。『エンゲージ』と選曲が被っているBGMもありますがアレンジの方向性が全く異なっており、『FE』の原作自体はやってないけど『スマブラ』で散々聞いた、という方にもおすすめできます。

また、本作のオープニングになっている主題歌も、最初はまたも『風花雪月』との温度差や、これまでの『FE』と違いすぎて「なんだ……このニチアサは?」となるのですが、気付いたら歌えるようになっている。サビの「エムブレム・エンゲェェェェェェジ!!!!!!!!!!!」は起動する度に一緒になって叫んでいます。近所迷惑に注意して行いましょう。

◆一生一緒エンゲージ、成立
本作を軟派な雰囲気で敬遠しがちの我々エムブレマーですが、歴代のメインキャラクターが総出演しているからこそ、やはりシリーズファンにこそプレイしてほしいと強く思います。あの頃一緒だった人とまた再会できるんですよ!

筆者自身も、プレイするまでの懸念のひとつで絶対譲れない要素に「思い出補正もかかりまくった好きなキャラが、こんなに軽いストーリーに出演してキャラ崩壊したらどうしよう。耐えられないよ……暴れるかも!!」がありました。うーん厄介エムブレマーですね。

でも大丈夫。ちゃんとその紋章士が出てくるタイトルをプレイしてたら分かる要素まで入れて喋ってくれる。心配しすぎだったんですよね色々と。でも心配になるんです。大切な青春を一緒に過ごした相手なんだから。

紋章士たちは本筋には大きく関わらないので、いうなればキャラ崩壊する場面がないのです。その代わり、出番が少ないといえども各紋章士には先ほども少々触れたファンサービス全開の専用の外伝が用意されています。ここでの紋章士とのやり取りが、これまた当時抱いた紋章士への気持ち…と同時に、再現マップを見て苦しんだ戦況を鮮やかに蘇らせてくれます。

もちろん『エンゲージ』がシリーズ初プレイという方にも影響がない程度に収まっており、この辺は新旧ファンを共存させる上手い手口だと感じます。安心して新規の方も購入して、そして過去作をお楽しみください。

シリーズ第一作目『暗黒竜と光の剣』の発売から、34周年が経過している『FE』シリーズ。ご長寿タイトルともなれば、新作でファンサービスという名のアプローチを仕掛けてきたところでファン層が入れ替わることは必然といえます。しかも新作が出る度に大幅な変更点があり、毎回最初は賛否を呼んでいる。どこかのタイミングで離れたという方も多いでしょう。実際、筆者も今回は本気で離れかけました。『FE』というシリーズ、なかなか洗練されたシナリオとゲーム性が共存しません。

それならなぜ古いファンを引っ張り込もうとする記事を書いたのか?その答えは、『エンゲージ』が実はシンプルでわかりやすい『FE』だったから。人は見た目で判断してはならないとはよく言ったものですが、オタクに優しいギャルだったんですよね『エンゲージ』は。

この記事で散々多用している「エムブレマー」とは、広義ではありますが『FE』シリーズを多く遊んでいるファンの呼称とされています。新要素もモリモリな本作は、逆に捉えると過去作でルールが固まっているエムブレマーからするととっつきにくいものがあります。

ですが、一度触れてしまうと……もう虜です。むしろ逆に長く続いているSRPGという概念をよくぞここまで完成形にしてくれた。

シナリオという最も前面に出てくる最大の欠点を覆す、完成度の高くわかりやすいシミュレーション性がそこにはありました。とにかくこのゲームは「手強いシミュレーション」をお求めの方におすすめな傑作です。プレイしてると普通に夜が明けてます。「夜明けの~♪」

本作『エンゲージ』は、筆者と『ファイアーエムブレム』シリーズを一生一緒『エンゲージ』させてくれた一作といえます。なんだかんだ言いつつも、毎回スムーズに発売日購入を続けていたのに今回ほど拗れたことは初めてでした。ひと悶着あってハッキリしましたが、結局『FE』が大好きなんです。もう絶対離れないね。

冒頭でも述べましたが、この記事は筆者のような長年のファンである厄介エムブレマーに特に届いてほしい。切実にそう願います。少しでも購入を健闘している方が、このレビューを見て購入に踏み出していただけると、うれぴっぴですぞ!

なんだかんだ『FE』は面白い、やめられない。やり始めたら眠れない、手強いシミュレーション。シリーズへの「愛」と真新しい『FE』に飛び込む「勇気」、まさに「愛と勇気の物語」がそこにはあります。

では最後に、歌いましょう。あのとき脳内でエンドレス再生されたあの歌を。

「買って来るぞと勇ましく!」