国民的RPG『ドラゴンクエスト』シリーズの最初期を支えた1作目と2作目がまとめてリメイクされ、HD-2D版『ドラゴンクエストI&II』として蘇ります。

オリジナル版の『ドラゴンクエスト』(以下、初代『ドラクエ』)や『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』(以下、『ドラクエII』)には、独自の要素やシリーズで初めて導入された新要素がいくつもありました。


リメイク版ではどの要素が残ったり、もしくは進化を遂げるのか。初代『ドラクエ』と『ドラクエII』の“個性”とも呼べる特徴や各要素を、改めて振り返ってみましょう。なお、今回取り上げる特徴や要素は、ファミコン版のものとなります。

■シリーズの原点となった『ドラゴンクエスト』
初代『ドラクエ』は、家庭用向けコンピュータRPGの先駆者的な存在です。多くのゲームファンにとってまだ馴染みのない「RPG」という遊びを分かりやすく伝えるため、様々な工夫や要素が盛り込まれました。

複数のウィンドウを同時に表示させる「マルチウィンドウ」も代表的な施策のひとつですが、このほかにも数多くの特徴や“個性”を備えています。

■チュートリアルを兼ねた幕開け
今では「コマンドを選択して行動するRPG」というシステムはすっかり定着しましたが、当時のファミコンユーザーにとっては未体験の遊びでした。このため親切な誘導は欠かせず、そうした配慮がゲーム開始直後から用意されています。

玉座の前で一通りの説明を受けた主人公は、しかしそのまま冒険に旅立つことができません。なぜなら、廊下に出るための扉は閉まっており、施錠までされているためです。この扉を開ける鍵は、近くに置かれた宝箱の中から見つけることができます。

コマンドRPGに慣れていると、ただ手間が増えているだけに見えることでしょう。
しかしこの行程を経ることで「先に進むには条件を満たす必要がある」「宝箱からアイテムが手に入る」「手に入ったアイテムを使えば、条件を満たすことができる」といった行動と結果を学べます。

問題が立ちはだかり、それを解く方法を見つけ、そして実行する。RPGの攻略に不可欠な要素を、開幕直後に学ぶことができる構成になっているのです。いわゆるチュートリアルに相当するものですが、当時のゲームでここまで配慮が行き届いていたゲームはかなり貴重でした。この丁寧さが、『ドラクエ』シリーズがヒットした理由のひとつでしょう。

■「とる」「とびら」「かいだん」などのコマンド
コマンドRPGは、戦闘から街中の情報収集、物の売り買いまで全て、コマンドを選んで実行します。戦闘なら「たたかう」「ぼうぎょ」「じゅもん」などを選びますし、街中なら「はなす」「しらべる」などが中心に使われます。

しかし初代『ドラクエ』では、今でもポピュラーなコマンドだけでなく、「とる」「とびら」「かいだん」といったコマンドもありました。

今の視点からすると、コマンドがかなり細分化しているように見えます。繰り返しになりますが、コマンド入力に慣れていないプレイヤーが多いため、出来るだけ細かく分類することで分かりやすさを優先した結果だと思われます。

ちなみに初代『ドラクエ』では、「はなす」を選んだあと、東西南北の方角も指定する形でした。これは、キャラクターのグラフィックが正面のみなので、「主人公が向いている方向」を視覚的に表現する方法がなかったためです。


■自由度の高い冒険
後のコンピュータRPGは、寄り道の要素があるにしてもメインストーリーは一本道で、展開の順番が決まっている構成を取るものが増えました。プレイヤーの動きが決まっていればゲームバランスが取りやすく、物語を表現する上でもやりやすいためでしょう。

しかし初代『ドラクエ』の場合、クリアに欠かせないアイテムがいくつかあるものの、その入手順に縛りはありません。

もちろん、「○○を手に入れるには××が必要」という段階はあるものの、最終的に必要な3つのアイテムを入手するタイミングや順番は、プレイヤーの行動次第で変動します。こうした自由度の高さも、初代『ドラクエ』を語る上で欠かせない“個性”です。

また、HD-2D版『ドラゴンクエストI&II』のネタバレになる可能性もあるため詳細は伏せますが、初代『ドラクエ』はマルチエンディングを採用していました。ハッピーエンドとバッドエンドがあり、しかもハッピーエンドは冒険の内容によって一部変化します。

■戦いは常に1対1!
初代『ドラクエ』といえば、特徴的なバトルも印象深いところです。冒険の旅には数多くの敵が立ちはだかりますが、その全ての敵に対して、勇者はひとりだけで戦います。

これも、コマンドRPGに慣れていないプレイヤーへの配慮として、操作キャラをひとりに絞った方が分かりやすいという判断によるもの。これも今現在から考えると異例の対応に思えるかもしれませんが、そのシンプルさが間口を広げる効果に繋がったものと思われます。

ひとりきりの戦いなので、敵を倒すのはもちろん、怪我の治療も勇者が担当するため、その冒険はかなり大変だったことでしょう。
しかし、実はその条件は敵側も同様で、スライムからラスボスに至るまで、全てが1体ずつしか戦闘を仕掛けてきません。

そのため、初代『ドラクエ』における戦いは常に1対1。全編通して一騎打ちの戦いが味わえます。昨今のコマンドRPGはパーティプレイがほとんどなので、初代『ドラクエ』のスタイルはむしろ斬新に見えるかもしれませんね。

■明かりなしでは迷子に!? 暗くて怖い「ダンジョン」
「ダンジョン」は、多くのゲームでも危険な場所として描かれています。その点は初代『ドラクエ』でも同様ですが、恐ろしさに拍車をかけるのが「極端な視界の悪さ」です。

これもメインシリーズでは本作のみの要素ですが、アイテムの「たいまつ」や周囲を照らすじゅもん「レミーラ」を使わなければ、ダンジョンの中では一寸先は闇。具体的には、ほぼ勇者の姿しか見えないような状態です。

そのまま探索することも可能ですが、道の判別がかなり難しく、よほど慣れたプレイヤーでなければ迷子になり、右往左往するありさまに。文字通りの意味で“迷宮”となるため、明かりを得る手段はとても重要でした。

■帰還専用のじゅもんだった「ルーラ」
『ドラクエ』シリーズにおけるじゅもんの中でも、「ホイミ」や「ギラ」、「ラリホー」と肩を並べるほど有名で、しかも有用なもののひとつが「ルーラ」です。街や城、作品によってはダンジョンなどの重要拠点にも一瞬で移動できる、大変便利なじゅもんです。


道中の戦いを省き、移動時間を短縮できるため、戦力の温存や利便性の高さなど、そのメリットは一目瞭然。このじゅもんなしにクリアした人は、おそらくごくわずかでしょう。

これほど便利な「ルーラ」ですが、実は初代『ドラクエ』において、その効果は非常に限定的でした。一瞬で移動できるのは確かですが、移動先は王様がいる「ラダトームの城」の前のみ。他の町への移動はできません。

そのため、初代『ドラクエ』における「ルーラ」は、移動のじゅもんというよりも、“帰還するためのじゅもん”といった存在でした。

■RPGの面白さを掘り下げた『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』
初代『ドラクエ』は、1作目ということもあり、この作品にしかない特徴が数多くありました。一方、ファミコン版『ドラクエII』の場合は、独自要素もあるものの、後のシリーズ作に繋がった「この作品から始まった要素」が多数存在しています。

本作にしかない特徴や新要素などが合わさって、『ドラクエII』の“個性”が形成されました。

■シリーズ初のパーティ編成
『ドラクエII』では、ふたりの王子と王女による編成で冒険が進みます。前作が勇者の一人旅だったため、パーティーを組むのは本作がシリーズで初となりました。

キャラごとに得意な分野や使えるじゅもんが異なっており、それぞれの長所をどのように活かし、互いの弱点をどうやって補うか。
戦略性が一気に広がります。

ただし、仲間になるキャラクターや職業は決まっており、自由な編成はできません。これも、まだRPGに慣れていないプレイヤーに向けた段階的な配慮でしょう。ちなみに自由なパーティ編成は、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』で実現します。

味方が3人に増えて頼もしくなりましたが、この変化に合わせ、敵も複数登場するようになりました。多数対多数による乱戦は当時のプレイヤーたちに新たな刺激を与え、RPGの面白さが一段と深まったと言えます。

■使い勝手がちょっと良くなった「ルーラ」
『ドラクエII』でも重要な「ルーラ」ですが、本作でも「ルーラ」の目的地を自由に選ぶことはできません。しかし、初代『ドラクエ』と比べると、使い勝手は一段階あがっています。

当時はゲームデータをセーブする手段がなく、ゲームデータを暗号化した「ふっかつのじゅもん」をメモし、プレイ再開時に入力することで継続的にプレイできます。そして、この「ふっかつのじゅもん」を最後に聞いた場所が、『ドラクエII』における「ルーラ」の行き先となったのです。

初代『ドラクエ』の場合、「ふっかつのじゅもん」が聞けるのは「ラダトームの城」のみ。しかし『ドラクエII』では、「ふっかつのじゅもん」を聞ける場所が複数あるため、「ルーラ」による帰還先はひとつに限定されていません。


「ここに戻りたい」という場所で「ふっかつのじゅもん」をあらかじめ聞いておけば、「ルーラ」の行き先を任意で指定することが可能に。コマンドひとつで自由に選択できない不自由さはあるものの、初代『ドラクエ』よりは便利になり、後の作品よりも不便な「ルーラ」も、『ドラクエII』が持つ“個性”と言えるでしょう。

■「船」で広がる冒険感
初代『ドラクエ』の移動は、徒歩と「ルーラ」による帰還のみでしたが、『ドラクエII』では新たに「船」という移動手段が増えました。

大海原を行き来し、新たな大陸に乗り込むこともあれば、川を遡上して秘境を目指すこともあり、冒険の幅が一気に広がります。船の登場により、世界をより広く描くことができるようになりました。

しかし、船の移動はロマンだけではありません。航海中も敵と遭遇するため、戦いの舞台も海にまで広がっています。初めての“船上の戦い”に、テンションが上がったプレイヤーも多いはず。

また船だけでなく、「旅の扉」という移動手段も増えました。ふたつの地点を繋ぐ特別なゲートのようなもので、行先は決まっているものの、これも冒険の幅を広げてくれる存在です。

■冒険のアクセントになった「ふくびき」
もうひとつ忘れられない“個性”といえば、『ドラクエII』の「ふくびき」です。実際はスロットのようなミニゲームになりますが、3つの絵柄を揃えることでその柄に応じた景品をもらうことができます。

いい景品になるほど有用性も高く、厳しい冒険の助けになります。また単純に、当たること自体がちょっと嬉しく、長い旅路のちょっとしたアクセントと言えるでしょう。

「ふくびき」を楽しむには「ふくびきけん」が必要です。買い物をすればランダムでもらえるほか、宝箱に入っていることもあり、冒険を続けていくと自然と手に入ります。王子王女の旅にちょっとした“嬉しい”を足してくれる「ふくびき」も、『ドラクエII』らしい遊び心のひとつです。

HD-2D版『ドラクエI&II』に先駆けて登場したHD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』では、「とくぎ」や新職業の導入といった新要素が盛り込まれ、『ドラクエIII』の“個性”のひとつとなった「自由なパーティ編成」の楽しさがより膨らみました。

HD-2D版『ドラクエI&II』が見せてくれるであろう進化と“個性”を心待ちにしながら、遊べるその日をゆっくりとお待ちください。
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