■これまでのあらすじ

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前世の記憶がきっかけで?平安時代のやんごとなき姫君と冴えない衛士の駆け落ちエピソード【一】

前世の記憶がきっかけで?平安時代のやんごとなき姫君と冴えない衛士の駆け落ちエピソード【二】

今は昔、武蔵国から京の都に駆り出され、朝廷の警護に当たっていたとある衛士(えじ)が、故郷恋しさにその風景を呟いていたところ、天皇陛下の皇女である姫宮さまがそれを聞き留めて「その光景、前世で見たような気がする。一目確かめたいから、武蔵国まで連れてって欲しい」とワガママを言い出します。


根負けした衛士は夜陰に乗じて姫宮さまを背負って御所から抜け出し、一路武蔵国を目指しますが、当然のごとく大騒ぎとなったのでした……。

■「姫を連れ戻すのじゃ!」繰り出される追手

さて、可愛い姫宮さまが忽然と姿を消したとあって、天皇陛下はこの世の終わりのごとく嘆かれました。

「おぉ、姫よ……どこへ行ってしまったのか!神隠しに遭ったか、あるいは物怪(もののけ)にでも捕られたか……今ごろ怖い思いでもしているのではなかろうか……!待っておれ、この父が、必ず助けて見せようぞ!」

四方八方を捜索させたところ、有力な情報を入手できました。

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二人の逃避行(イメージ)

「何やら随分ときらびやかに美しく、かぐわしき(良い香りのする)ものを背負った男が、怖ろしい勢いで東へ走り去って行ったそうです」

そう聞いた天皇陛下、膝を打って喜びました。

「それじゃ!姫は日ごろより大層かぐわしき香りを発しておるから、それに間違いない!」

そして御所を警護していた衛士の人員を点呼すると、例の衛士だけいなくなっています。

「おのれ下郎め、姫の美しさに乱心し、我がものにせんと連れ去ったか!えぇい、何をしておる!早く彼奴めを追い駆けて姫を救い、連れ戻すのじゃ……!」

■瀬田の唐橋で追手を足止めし、武蔵国へ

……一方その頃。

「ちょっとここでお待ち下せぇ」

姫宮さまを背負って近江国は琵琶湖に架かった瀬田の唐橋(現:滋賀県大津市瀬田~唐橋町)までやって来た衛士は、追手を警戒して橋を壊しておくことにしました。

前世の記憶がきっかけで?平安時代のやんごとなき姫君と冴えない衛士の駆け落ちエピソード【三】


瀬田の唐橋。歌川広重『近江八景』江戸後期

まず姫宮さまを背負って対岸まで渡り、姫宮さまを下してから橋の真ん中まで戻り、一間(※橋げたと橋げたの間。およそ数メートル)ばかり橋板を外しておきます。

こうしておけば、追手の大軍はこの橋を渡れずに琵琶湖を迂回するか、あるいは橋を修繕するよりなく、いずれにしても大幅に時間が稼げます。

「……ふぅ。
これでよし!」

作業を終えた衛士は、再び姫宮さまを背負って街道を駆け続け、七日七晩かけて念願の故郷・武蔵国へ帰り着いたそうです。

前世の記憶がきっかけで?平安時代のやんごとなき姫君と冴えない衛士の駆け落ちエピソード【三】


「うわっ!橋がっ!」難渋する追手たち(イメージ)

一足違いで瀬田の唐橋まで追いついた追手の者たちは、歯がみしたものの打つ手もなく、橋の修繕で三か月も時を費やしてしまいました。

それでも任務を完遂するべく街道を追いすがり、ふらふらになりながらもようやく武蔵国へたどり着いたのですが、衛士と姫宮さまはどうなってしまうのでしょうか。

【続く】

※参考文献:
辻真先・矢代まさこ『コミグラフィック日本の古典15 更科日記』暁教育図書、昭和五十八1983年9月1日 初版
藤岡忠美ら校注 訳『新編日本古典文学全集 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記』小学館、平成六1994年9月20日 第一刷

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