数多くの妖怪がうごめく日本。その中でも「件(くだん)」と呼ばれる妖怪は、体は牛、頭は人間という姿をしています。
そして件と似ている「牛女(うしおんな)」という存在が、第二次世界大戦中から兵庫県で噂されるようになりました。

今回は、この「牛女」にまつわる噂の経緯についてご紹介します。

■件と牛女の違い

元々「件」は江戸時代の文献に登場する妖怪です。凶事が起こる前に牛から生まれ、人の言葉で天災や戦争などに関する予言を残して、数日のうちに死んでしまうと言われています。

この件は文献に伝わるただの妖怪ではありません。現代でも、震災が起こる前に「件が目撃された」という情報があるほど、不気味な存在感を放っています。

江戸時代の妖怪「牛女」の目撃情報が現在でも噂されるようになっ...の画像はこちら >>


倉橋山の件を描いた天保7年の瓦版(wikipediaより)

そして件と似ている「牛女」は、兵庫県西宮市を中心に噂されるようになった妖怪です。

両者は「牛」という共通点があるものの、件の「頭は人間・体は牛」という姿に対して、牛女は逆の「頭は牛・体は人間」という違いがあります。

また、牛女は人間から生まれて着物を着ているという情報もあるので、牛から生まれる件とは違う存在なのでしょうか。

そこで興味深い体験談がありました。漫画家・小林薫さんの著書「どすこいスピリチュアル(2)」の中に、「赤い着物を着た牛頭の人が予言をした」という体験談が掲載されているのです。

この話に登場する妖怪を牛女だとすると、両者共に予言をするという共通点がありますね。
違う存在ではあるけれど、限りなく近い繋がりがあるのかもしれません。

■牛女の噂が始まった経緯

第二次世界大戦があった頃、西宮市一帯を襲った空襲で牛の屠殺場が焼失しました。ここの座敷牢に牛頭の娘が閉じ込められていたという噂から、牛女伝説は始まったのです。

さらに1980年代になると、この牛女はメディアで取り上げられるようになり、ある寺がかなりの迷惑を被ることに……。

兵庫県西宮市にある高野山真言宗のお寺「鷲林寺(じゅうりんじ)」の住職は、夜毎訪れる若者たちの騒音に悩んでいました。

江戸時代の妖怪「牛女」の目撃情報が現在でも噂されるようになった経緯とは?


鷲林寺の本堂(wikipediaより)

どうやら肝試しをしているらしい若者の集団は、県外ナンバーの車が目立ちます。どうしてこんなことになったのか、住職には想像もつきません。

そこであるとき注意した若者に尋ねてみると、週刊誌に「鷲林寺には牛女がいる」という投稿記事が掲載されたとのこと。その話は、「境内にある祠を3周すると牛女が現れる」という内容でした。

実際、祠には荒神さんの眷属「牛」を祀っていることから、この牛と元々西宮市に伝わる牛女の噂を誰かが結びつけたのでしょう。

寺に無断で掲載したことから住職は週刊誌に抗議しましたが、それでも噂に惹かれてやってくる若者は後を絶ちません。

思い悩んだ住職は、「牛女を引っ越しさせる」ことを思いつくのです。


■牛女の噂に翻弄されるお寺

ある日、山門に「牛女は引っ越ししました」と看板を掲げた住職。最初は冗談のつもりでしたが、なんとこの方法で夜中の訪問者が激減したのです。

やっと落ち着きましたが、その後テレビで取り上げられることになり、また住職は牛女の噂に悩まされるように。

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ただテレビで話題になったのが2000年頃なので、現在ではもう落ち着いていることでしょう。

元々西宮市にあった牛女の伝承から尾ひれがつき、メディアによって噂があっという間に広がった牛女伝説。お寺にとってはなんとも迷惑な話ですね。

しかし現代でも目撃情報があることから、件や牛女は凶事を予言するために、今でもどこかでひっそりと生まれているのかもしれません。

参考サイト:鷲林寺ホームページ(牛女伝説の真実)、どすこいスピリチュアル(2)

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