オリンピックやワールドカップなど、国際競技の表彰式などでよく聴かれる国歌。

国歌は文字通り国家のテーマソングとして広く国民に親しまれており、その内容は国によって様々。
国家の歴史や自然文化、そして国民性などが如実に表現されています。

さて、私たちが住んでいる日本の国歌はご存じ「君が代」。世界で一番短い国歌として知られています。今回は日本の国歌「君が代」について紹介したいと思います。

■「君が代」のルーツは平安時代

君が代は 千代に八千代に さざれ石の
巌(いわお)となりて 苔(こけ)のむすまで

この短い歌詞は平安時代の勅撰和歌集『古今和歌集(延喜五905年)』に収録されている

我君(わがきみ)は 千代に八千代に さざれ石の
巌となりて 苔のむすまで

という歌(詠み人知らず。賀歌)が初出とされ、現代の国歌と少し違うものの、その意味するところはどちらも共通しています。

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「愛しい君よ、願わくはいつまでも……」(イメージ)

「私の大切なあなたが、いつまでもいつまでも、さざれ石が巨岩に成長して苔が生えるくらいに末永く幸せでありますように」

要は相手に対して変わらぬ愛情を歌ういわばラブソングであり、平和を愛する日本人らしい国民的テーマソングにぴったりの歌と言えるでしょう。

後に君=君主≒天皇陛下と解釈され、中には「皇室に対する忠誠を誓わせる歌」として嫌う方も一部にいるそうですが、ここでの「君」はあくまでも「あなたにとって大切な人」ですから、その方を思い浮かべながら、心安らかに歌って頂ければと思います。

■さざれ石って何?

ところで「さざれ石」って何?という質問があったのでごくざっくり説明すると、永い歳月をかけて小石から溶け出した炭酸カルシウムや水酸化鉄が互いの隙間に流れ込んでつながり、ひとかたまりとなったものを指します。

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さざれ石。鎌倉・建長寺にて。

普通は大きな岩石が風化して、小石に砕けていくものだとばかり思っていたので、歌を聴いた最初はイメージが混乱しましたが、小石同士が長い歳月の中で結びついていく様子もまた、愛情の深さを表現するのにベストマッチな題材ではないでしょうか。


■国歌に込められた過酷な歴史

さて、日本の国歌「君が代」は紹介した通りラブソングですが、各国の国歌はどのようになっているのでしょうか。

ここではお隣の中国、そして太平洋を隔ててアメリカの国歌(和訳)を、それぞれ紹介したいと思います。

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中国人民解放軍のポスター。「敵が刀を磨いでいる、我々も刀を磨がねばならない」の意

【中国の国歌・義勇軍行進曲】 起て!奴隷となることを望まぬ人びとよ!
我らが血肉で築こう新たな長城を!
中華民族に最大の危機せまる、一人ひとりが最後の雄叫びをあげる時だ。
起て!起て!起て!
我々すべてが心を一つにして、敵の砲火に向かって進め!
敵の砲火に向かって進め!
進め!進め!進め!

【アメリカの国歌・星条旗】 おお、見えるだろうか、夜明けの薄明かりの中
我々は誇り高く声高に叫ぶ
危難の中、城壁の上に雄々しく翻る
太き縞に輝く星々を我々は目にした
砲弾が赤く光を放ち宙で炸裂する中
我等の旗は夜通し翻っていた
ああ、星条旗はまだたなびいているか?
自由の地 勇者の故郷の上に!

※全4番、1番のみ。

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「アメリカの自由と平和を守るため、陸軍は君の力を必要としている。さぁ、最寄りの募集事務所へ!」

中国とアメリカ、どちらも戦争を想起させる歌詞となっていますが、特に彼らが好戦的という訳ではなく、苦しい闘いの中で自由と独立を勝ち取った先人たちへの感謝が込められており、過酷な歴史を次世代に受け継ぐことで、平和の大切さを伝えていこうとしているのです。

そうした厳しい歴史的背景に思いを馳せると、どの国の国歌に対してもリスペクトの気持ちが湧いてくることでしょう。

■終わりに

ところで、君が代は日本の国歌と言われますが、君が代が正式に日本の国歌となったのは何と平成十一1999年8月13日。「国旗国歌法(国旗及び国歌に関する法律。法律第127号)」の施行まで、日本には正式な国歌がなかったことになります。初出が平安時代だと言うのに、意外ですね。


ともあれ、これまでもこれからも、君が代は大切な人の末永い幸せを願う日本のテーマソングとして、広く親しまれるよう願っています。

来年開催予定の東京オリンピックでも、たくさん歌われて欲しいですね。

※参考文献: 小沢正夫・松田成穂『古今和歌集 新編日本古典文学全集』小学館、1994年10月25日
小田切信夫『国歌君が代の研究』平凡社、1966年

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