現代でも時おり二枚目俳優などと聞きますが、この二枚目って、いったい何を数えているのでしょうか。
それと、二枚目があるなら一枚目は必ずあり、もしかしたら三枚目以降も……と思ったら、よく滑稽なお調子者を三枚目と呼び、往々にして二枚目の引き立て役にされています。
歌川国貞「花川戸の助六」嘉永二1849年
この「~枚目」という表現は、歌舞伎に語源があります。
■歌舞伎の客寄せに並べた八枚の看板
今は昔、歌舞伎を興行する際に客寄せとして一座の名物役者を絵姿に描いた看板を劇場の前に並べる習慣があったそうです。
看板は全部で八枚。その一枚目は書出(かきだし)と言って文字通り看板(絵姿)の描き始めで、一番人気の役者が描かれたそうです。
一座としては最もアピールしたいキャストですから、絵師の筆にもさぞかし気合いが入ったことでしょう。
続く二枚目の看板には色男の役を演じる役者を充てるのがお約束で、これが転じて美男子一般を広く指すようになりました。

愉快な三枚目たち。観客を笑わせる芸の見せどころ
そして三枚目の看板には道化を演じる役者を充てるのがお決まりで、こちらもそのままお調子者一般を表す言葉に転じています。
で、普段はなかなか聞かない四枚目も存在しており、中軸(なかじく)と言って座頭(ざがしら。一座の支配人)に次ぐナンバー2の実力派俳優が描かれました。
五枚目から七枚目にかけては敵役(かたきやく)、実敵(じつがたき)、実悪(じつあく)と呼ばれる文字通りの悪役が続きます。
それぞれの違いについて紹介すると、敵役は主人公と敵対するやられ役(必ずしも悪ではない)、実敵は敵でいながら実(じつ。信念や誠実さ、あるいは憎めない要素など)のある役、そして実悪は実に悪どい黒幕的な人物……と言ったところでしょうか。
そして最後の八枚目に座頭(ざがしら)が出てきて一座を〆る、と言った具合です。
■終わりに
要するに、二枚目とは歌舞伎一座の看板であり、それぞれに決められた役割を示すものだったようです。

役者がずらりと勢ぞろい。誰が何枚目なのかは不明
日常会話だと二枚目、三枚目くらいしか使いませんが、
「あの人は、本当に一枚目(書出)なカリスマ性があるね」
「あの野郎、どこまでも七枚目(実悪)だな……」
「口ではあぁ言っているけど、彼は意外と六枚目(実敵)でね。君を思ってのことなんだよ」
なんて言ってみるのも、ちょっと乙かも知れませんね。
※参考文献:
日本語倶楽部 編『語源500 面白すぎる謎解き日本語』河出書房新社、2019年11月
武光誠『歴史から生まれた日常語の由来辞典』東京堂出版、1998年5月
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