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日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その1】
日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その2】
日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その3】
日本橋、遊郭、長屋…浮世絵で見る、江戸時代を生きる人々のタイムスケジュールはどうなっていた?【その4】
■夕七つ(午後15時頃から午後17時頃まで)
[油商人廓話]東京都立中央図書館特別文庫室所蔵
■夕暮れ迫る江戸の町

東都名所ノ内今戸夕照 画:安藤広重 国会図書館デジタルコレクション
さて、午後3時を過ぎると日は夕方に向かっていきます。
上掲の絵で描かれた“今戸”は隅田川西岸の船着き場として栄え、江戸名物と言われた今戸焼・今戸人形の発祥地です。
隅田川の水を引き込んだ堀割の山谷堀を隔てて、山谷堀に架けられた橋が今戸橋です。「今戸橋上より下を人通る」という吉原通いの船でにぎわった歌も詠まれています。
■帰帆の頃

江戸八景 芝浦の帰帆 画:渓斎英泉 国会図書館デジタルコレクション
芝浦は古く竹芝の浦といったのを縮めてこう呼びました。豊かな漁場であり芝雑魚場という魚市場がありました。芝浦でとれた魚は“芝肴”と称され江戸に広く出回り、将軍にも献上されました。いわゆる“江戸前”です。
芝浦の海上の船舶の往来は頻繁であり、夕暮れには帆船が浜へ向かって帰る情景が見られました。
■突然の夕立

夕立図 画:鈴木春信 シカゴ美術館所蔵
夕立にあわてて洗濯物を取り込もうとする美人が描かれています。これは絵暦(カレンダー)としてつくられたものです。
干された浴衣の中に「大、二、三、五、六、八、十、メ、イ、ワ、二」と書かれ、帯には「乙、ト、リ」と書かれていることから、明和2年の大の月を示した絵暦であることがわかります。
慌てて駆け出して下駄を転がしちゃうなんてリアルですね。
■夏の夕方は行水に限る

喜多川歌麿 行水 メトロポリタン美術館所蔵
夕方の夏の風物詩といえば“行水”です。この“行水”という言葉はお経の原点ともいえる阿含経の中にあり「神仏に祈る前に、水を浴びて身を清めること」を意味します。
江戸の住宅は、夏をいかに快適に過ごすかということが一番の基準として考えられたと言われているくらいですから、湿気が多い日本の夏は着物を普段の服装としていた江戸時代には“行水”は必要不可欠でした。
大人も銭湯に行かず“行水”で済ませた人も多いようですが、女性の場合は周りから見られないように戸板を立てるなど気遣いも大変だったようです。
■遊女の貴重な自由時間

〔新〕美人合自筆鏡 画:北尾政演(山東京伝) 国会図書館デジタルコレクション
午後4時頃になると、吉原の昼見世は一旦おしまいです。これから2時間くらいは自由時間になりこの間に食事を済ませます。
上掲の絵では自由時間を過ごす遊女たちの様子を描いています。廊下では禿と振袖新造が子供らしい様子で遊んでいます。右奥では遊女が三味線の稽古をしています。芸を磨くことは遊女として位を上げるのに重要なことでした。
その左となりにいる遊女は“ねずみ”のような小動物を手のひらに包んで和んでいます。絵の左側では、遊女が店で働く女性に何かしら話しかけています。
一日中、ほとんど休みなく働く遊女たちの大切な休憩時間です。
■横丁を流れる三味線の音

稽古所の賑わい 作者不詳 国会図書館デジタルコレクション
歌舞伎やお座敷で聴く三味線は、江戸庶民にとって高価な楽器ではありますが、とても馴染みのあるものでした。そこで覚えたての小曲をすぐに弾くことが出来るという理由で、端唄がもてはやされるようになりました。
ある程度のお金をもつ男性達は、さらりと三味線を鳴らして端唄の一つも歌える方が“粋”だとばかりに、三味線の稽古をすることが流行しました。
この絵の鴨居に「かつぶし たくさん お師匠さんへ」「せいろう 百荷 お師匠さんへ」という字が書いた張り紙があります。
弟子たち皆で師匠の生活の面倒を見たということから、こういう目録を張り出していたのです。
仕事の終わった者から、二人三人と旦那衆は稽古所に集まり、三味線の音色が流れていたのでした。
■歌舞伎芝居がはねた後の楽しみ

大江戸芝居年中行事 風聞きゝ 画:安達吟光 国会図書館デジタルコレクション
午後5時頃、江戸の町が暗くなる頃には歌舞伎芝居も終わり、人々は芝居茶屋に寄って飲食を楽しみ帰途につきました。
またそれとは別に、芝居好きの人たちが三々五々集まって、かけそばなど食べながら歌舞伎の筋などをあれこれと評論しあうのもまた楽しみでした。そこに芝居関係者の人も入り込み、客の評判を聞いて芝居の訂正をすることもありました。
次へ続きます。
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