そもそもこの「奴」の語源を調べてみると、「やっこ」はもともと、「家つ子」(やつこ)と書き、武家に働く者の中でも低い身分の武家奉公人を蔑むのときの呼び方だったそうです。そこに、しもべを表す「奴」という字を当てました。
彼らの中には「槍持奴」と呼ばれる役目の人たちもいました。槍持奴とは、大名行列のときに、先頭で槍や、衣類などの日用品を箱に入れて棒を通した「挟み箱」といわれる箱を運ぶ役目の人たちのことを指しています。

彼らが着ていた半纏に描かれた紋(釘抜紋)の様子から、食材を大きめの立方体に切ることを「奴に切る」というようになり、そこから四角の立方体に切った豆腐のことを「奴豆腐」と呼ぶようになり、後に「冷奴」戸呼ばれるようになったのです。
因みにこの槍持奴の多くは、髪を撥鬢(ばちびん)に結び、鎌髭(かまひげ)をはやし、冬でも袷(あわせ)一枚という独特な風貌をしていたようで、彼らの風貌を凧に描いたのが「奴凧」のはじまり。
元来身分が低いはずの「奴」が、高く上がって大名屋敷などを見下ろすことになるという、奴たちの上昇志向や身分の高い者たちに対するちょっとした鬱憤から誕生したそうです。
また、首の部分を大豆でつくり、細い丸竹の中央に立て、糸を引っ張って左右に回るように仕掛けた玩具人形に「豆奴」(まめやっこ)といわれるものがありますが、これも通常、槍持奴の姿をしています。
私たちが何気なく使っている「奴」という言葉には、成り上りたくても成り上れない、そんな悲しい民衆の想いが隠されているのかもしれませんね。
参考
- 小松 寿雄・鈴木 英夫 編集『新明解 語源辞典』(2011 三省堂)
- KAGAMI & Co. (著)『笑える日本語辞典 辞書ではわからないニッポン』(2016 講談社)
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