癇癪もち、癪に触る…など慣用句ではまだ使われている「癪(しゃく)」。
かつては女性の病気の代名詞といわれていましたが、実際、この病気は一体何だったのでしょうか?
昔は上腹部や鳩尾(みぞおち)が差し込むように痛むものの総称を癪と呼んでいました。
胃痛だと考えれば男女ともに起こるはずですが、神経性やヒステリックになりやすいことと結びつけられて、なぜか女性特有の病気とみなされてきました。
髪を気にする疳癪は女のくせ(渓斎英泉 浮世四十八癖)
川柳でも「切れるという字、只見ても癪」(男との縁が切れることを想像するから切れるという字を見るだけで癪が起きる)などと詠まれたりも。
結局その当時、西洋医学にはない言葉だったので、明治期に日本語をポルトガル語に訳した『日葡(にっぽ)辞書』では「脾臓の病気、凝結した血のせいによる病」と説明されていました。
現代の辞書では「胸部または腹部におこる一種のけいれん痛で、多く女性にみられる。医学的には胃けいれん、子宮けいれん、腸神経痛などが考えられる」(大辞林)と説明されています。
■男の病気「疝気(せんき)」

『飲食養生鑑』歌川国貞
逆に男性のみに起こる病とみなされていた「疝気」というのがありました。
主に下腹部に走る腹痛のことで、これも男女ともに起こりえるのですが、なぜか男性特有の病気とされてきました。
当時の見立てとしては
- 寒さと関係があり、漢方では大小腸・生殖器などの内臓が発作的に痛む病気。
- 睾丸が腫れてくる。腸が睾丸に降りてきて大きくなってしまう、脱腸の一種。
なので、「きんたまは疝気の虫の下屋敷」という川柳も。
どうでもいいけど、なんでも歌に詠みますねえ…。
結局疝気も、その当時は患部の特定ができなかったため、下腹部一帯の痛みを広く指す症状と捉えるしかなさそうです。
ちなみに、この疝気をまじないで治す方法が過激。まず、細かくした灰を箱の中に入れ、尻をまくってその上にあぐらをかきます。すると睾丸が灰に当たるので、その跡が残った箇所にお灸を据えるというもの。めちゃくちゃ熱くて失神しそうじゃないですか?!
この方法が効いたのかどうかは、わかりません。
疝気は奉公人の仮病、癪は遊女が男性の気をひく口実に使われたようです。
「疝気、下風は奉公の道具」(疝気は奉公人が仮病などに使う方便)
「傾城の癪 人を見て おこる也」(遊女が嫌な客を断るときに癪を言い訳にする)
癪も疝気も、とっても身近なものだったことがわかりますね。
参考:病が語る日本史(講談社、酒井シヅ)
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