第21回放送「長篠を救え!」で初登場する鳥居強右衛門(とりい すねゑもん)。岡崎体育が熱演するこの人物は、いったい何者なのでしょうか。


今回は『三河物語』より鳥居強右衛門の活躍を紹介。NHK大河ドラマ「どうする家康」の予習にどうぞ。

■武田の包囲を脱出、家康の伝言を伝えに戻るが……

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武田の包囲を突破する強右衛門。月岡芳年「皇国二十四功 鳥居強右衛門勝商」

……鳥居寿祢右衛門と申者出して。信長ハ御出馬か。見て参れとて出ス。……

時は天正3年(1575年)5月。武田勝頼(演:眞栄田郷敦)の大軍に包囲された長篠城。城主の奥平信昌(演:白洲迅)は強右衛門に対して、織田信長(演:岡田准一)の援軍が来ているか見てくるよう派遣しました。

……城寄ハ。や寿や寿と出而。此由を家康へ申上たれバ。
信長へ指被越たれバ。信長御悦被成而。御出馬之由仰■か召されけれバ。寿祢右衛門。おうけを申而罷立而。武田之せうやうけんの。責口へゆき。竹たばをのぞきて。早かけいらんと見合ける處丹。見出されて召とら寿。……

長篠城の包囲をくぐり抜けた強右衛門は徳川家康(演:松本潤)の元へ駆けつけます。

「織田殿へ指し越されたれば、織田殿はお悦びになられて御出馬のよし」

援軍は間もなくやって来る。
これを聞いた強右衛門は急ぎ長篠城へかけ戻りました。

しかし包囲の比較的手薄な武田逍遥軒(しょうようけん。武田信廉)の陣を通過せんとしたところ、敵に発見・捕縛されてしまったのです。



■「城兵に降伏を勧めれば、助けてやろう」

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捕らわれた強右衛門(イメージ)

……勝頼之御前へ引出ス。勝頼ハ聞召。其儀奈らバ。汝が命ハた寸け置。国へ召■れ。過分に地行を可出。然者は里付にかけて城へ見せだき。其時ちか■き共をよび出して。信長ハ不出候之間。
城を渡せと申候へ。其時汝を■おろ志なんと云け寿バ。……

引き出された強右衛門に、勝頼は言いました。

「そなたの命は助け置く。それどころか、国許に過分の知行もくれてやろう。しかしその前に、条件がある」

もちろん、上手い話には裏があるもので……。

「長篠城から見えるところで、そなたを磔にかける。そなたは城内に向かって『織田の援軍は来ぬ。諦めて武田に城を明け渡されよ』と言うのじゃ。さすればそなたを助けてやろう」

つまり「さもなくば磔のまま処刑する」という脅しです。

さぁ困りました。命を惜しんでそんなことを口走っては末代までの恥。
しかしこの場で拒否したら、ただちに殺されて城内に援軍を知らせられません。

……寿祢右衛門申ハ。忝奉存候命さえ御た寸け候ハゞ。何たる事を成共可申候に。あまつさへ御地行を可被下と。御意之候ヘバ。目出度事何かあらんや。はやはや城ちかくに。はた物にあげさせ給へと申たれバ。其ごとく城ちかくに。かけたれバ。……

そこで強右衛門は答えます。


「命をお助け下さるだけでもかたじけなく存じ奉り候ものを、さらに知行まで下さるとは、お断りする理由などございませぬ」

という訳で、さっそく強右衛門は磔にかけられ、長篠城内へ向かって大音声を張り上げました。



■「援軍が来るぞ!」命を捨てて忠義の雄叫び

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磔にされた強右衛門(イメージ)

……城中之衆出而。聞給へ。鳥居寿祢右衛門こそ。志のびて入とて召とら寿。如此に成而候へと申たれバ。ことこと出而寿祢右衛門かと云。其時。寿祢右衛門申たるハ。信長は出させ給ハぬと申せ。命を扶け、其故地行チくれんとハ申が。信長は岡崎迄御出馬有ぞ。
上之助殿ハや■た迄御出馬也。先手ハ。市之宮本野が原に。まんまんと陣取而有。家康信康ハ。野田へう津らせ賜ひて有。城けんご尓毛ち給へ。三日之内に御うんをひらかせ給ふべしと。……

「みんな、聞こえるか!強右衛門じゃ!」

すると城内から仲間たちが、わらわらと顔をのぞかせます。

「織田殿の援軍が、すでに岡崎まで参られた!先手はもうすぐそこまで、我らが両殿(家康、信康)は野田までおいでじゃ!城を堅固に保たれよ、さすれば三日の内にご武運開けようぞ!」

……此由を奥平作志うと。同九八郎殿と。親子の人へ。よく申せと云たれバ。帰つて敵の■よ見を云や■奈れバ。はやくとゞめをさせとて。とゞめをぞさしける。……

※大久保彦左衛門『三河物語』第三下

これを聞いた長篠城兵は大いに奮い立ち、奥平貞能(さだよし)・信昌父子は強右衛門の忠義に感動したのでした。

■終わりに

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「援軍は必ず来るぞ!」長篠城内へ訴える強右衛門。楊洲周延「鳥居強右衛門敵捕味方城中忠言」

一方、当ての外れた勝頼はただちに強右衛門を殺させますが、これがかえって長篠城兵の士気を高めてしまう結果に。

「各々方、強右衛門の死を無駄にすまいぞ!」

「「「応!」」」

かくして徳川・織田連合軍が到着し、5月21日の長篠合戦が幕を開けるのでした。

名もなきヒーロー、戦国版“走れメロス”

鳥居強右衛門 とりい・すねえもん
[岡崎体育 おかざきたいいく]

“ろくでなし強右衛門”と呼ばれる、ふだんはやる気も勇気もない奥平家の地侍。武田軍に攻め込まれ、絶体絶命の長篠城を救うため、武田包囲網を突破して、岡崎城の家康のもとに助け求めるミッションを帯びる。走ると自然に歌を口ずさむ癖がある。

※NHK大河ドラマ「どうする家康」公式サイト(登場人物)より

命がけで味方の窮地を救った鳥居強右衛門。この「ろくでなし」設定がどのように活きるのか(そもそも要るのか)、大河ドラマのアレンジに注目ですね!

※参考文献:

  • 『日本戦史材料 第貮巻 三河物語 全』国立国会図書館デジタルコレクション

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