日本のパン屋さんで販売されているパンの中でも、特に人気があるのがクロワッサンです。あの独特の形状とサクッとした歯ごたえ、バターの香りとコクのある味わい……。
今回はそのクロワッサンの歴史を紐解いていきます。発祥地が外国なのは容易に想像がつきますが、実はその後のアレンジについては日本独特のものもあります。
クロワッサンという名前はフランス語で、三日月を意味します。あの形から三日月を連想するのは当然かも知れませんね。
しかし、名前はフランス語ですが、元になったパンはオーストリアのウィーンで作られたキッフェルンというパンだと言われています。
17世紀、ウィーンにいるパン職人が地下でパンを製造していた際、トルコ軍の侵入に気付いて撃退するという出来事がありました。
で、そのお祝いに三日月形のパン(キッフェルン)が作られたのですが、なぜそんな形状になったのかというと、トルコ軍の国旗に記されていたのが三日月だったのです。
三日月を食べてしまう、即ちトルコ軍に勝つということですね。

トルコの国旗
そしてその後、18世紀にマリー・アントワネット専属のパン職人がフランスでもキッフェルンを作ったため、フランス国内でもこのパンが広まりました。
実際には、クロワッサンの起源については諸説あるのですが、以上の起源説が最もよく知られたものです。
■老舗ベーカリーが日本で紹介
さて、いわばクロワッサンはオーストリア生まれのフランス育ちということですが、20世紀初頭までは、パン生地を薄く伸ばしたものが使われていました。
現在のような、バターを折り込むパイ生地状のものが生地に使われるようになったのは1920年代のパリだったとされています。そして、このようなタイプのクロワッサンが日本で販売されるようになったのは戦後のことです。
日本で最初にクロワッサンを作り始めた店ははっきりしており、現在も多くの店舗を持つ老舗ベーカリー・DONQ(ドンク)です。
DONQは1905年に神戸で創業し、日本に本格的なフランスパンを紹介したパン屋としても有名です。1964年にフランスのパン職人レイモン・カルベルが来日し、神戸で国際パン技術講習会を開催したのですが、その時に初めてバゲットやクロワッサンなどが日本に紹介されたのです。

当時のDONQ社長はこれらのパンに感動して試作を繰り返し、1965年にはカルベルの弟子であるフィリップ・ビゴがDONQに入社して技術指導を行います。
そして、ビゴはDONQのフランスパン専門工場を建設し、日本で初めて本格的なクロワッサンを作り始めました。
DONQのクロワッサンは今でも人気が高く、焼きたてのミニクロワッサンをグラム単位で買える「ミニワン」というブランドも展開しています。
■日本のクロワッサンの特徴は?
さて、フランスから輸入されたクロワッサンのレシピですが、本場の作り方がそのまま取り入れられているわけではなく、海外のものと日本のものとでは違いもあります。
まず、フランスで作られるクロワッサンには菱形のものと三日月形のものがあります。どちらの形状にするかは、使用している油脂によって決まり、バターなら菱形、マーガリンなら三日月形となります。
フランスでは伝統的なパン屋でも三日月形と菱形を並べて売っていますが、特に菱形のものは「クロワッサン・オ・ブールcroissantaubeurre(バターのクロワッサン)」と呼ばれ、カフェなどの朝食用に置かれていることが多いです。
一方、日本のクロワッサンには甘い物が多く見られます。例えば、中に生クリームやカスタードクリーム、ジャムなどの詰め物をするというアレンジが挙げられます。

いちごクロワッサン
また、焼き上げる前にチョコレートやアーモンドを練りこむという作り方もあり、特にチョコレートを包んだクロワッサンはパン・オ・ショコラとも呼ばれています。
いずれもフランスの伝統的なベーカリーでは見られないアレンジですが、現在はフランス・イタリア・ドイツでもクリーム入りのものが多く見られ、クロワッサンの可能性は今なお広がっていると言えるでしょう。
参考資料:食べログマガジン
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan