■陰陽師とは?

大河ドラマ『光る君へ』の中でユースケ・サンタマリアの名演で話題の、伝説の陰陽師・安倍晴明の人となりについて見ていきましょう。

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伝説の陰陽師・安倍晴明は地味な公務員!まるで”魔法使い”のような呪術の逸話は全てフィクション【前編】




安倍晴明は近年、小説・漫画や映画でいわば日本の魔法使いとして人気を集めています。
陰陽師という言葉が知られるようになったのも、この人がいたからこそと言っても過言ではないでしょう。

しかし、フィクションの世界では華やかに活躍するヒーローとして描かれることが多い晴明ですが、彼の素顔はそんなに華々しいものではありませんでした。

伝説の陰陽師・安倍晴明は地味な公務員!まるで”魔法使い”のような呪術の逸話は全てフィクション【前編】


晴明神社の安倍晴明像

まず彼の素性をざっくり説明すると、第62代村上天皇から第66代一条天皇までに陰陽師として仕えています。

陰陽師というのは、学問の一分野である「陰陽道」に基づいて術を行う方術師のことです。

陰陽道は、中国の陰陽五行説をもとに日本で成立した呪術・占術にまつわる学問・学派と考えるといいでしょう。

陰陽師は、天体を観測して暦を作成したり吉凶を占ったりするのが主な仕事でした。その専門知識と特殊な呪術・呪法を使って人々の災厄を除くこともできましたし、逆に災いをもたらすこともできたといわれています。



■天皇から信頼される

伝承によれば、安倍晴明は那智山(和歌山県)で修行していた師貞親王(後の花山天皇)の邪魔をする天狗を封じたことでその力を証明したり、病に伏した一条天皇を禊によって回復させたこともありました。

また、藤原道長の命を受けて雨乞いを祈願し、深刻な水不足から民を救うといった超人ぶりを発揮しています。

晴明は時の天皇・花山天皇からの信任が厚く、宮中に何か異変があるたびに呼び出されたといいます。986(寛和2)年には、役所の庇の中に蛇がいた、家鴨が役所のなかに入り込んだ、というだけでも占いを行っているほどです。

彼の陰陽師らしい活躍が記されているのが『古事談』です。


花山天皇は雨が降るとしばしば原因不明の頭痛で苦しみました。そこで晴明が占ったところ、天皇の前生(前世)は大峰山の行者で、その髑髏が谷底の岩に挟まったままになっていると出たのです。

そして、雨が降ると岩がふくれて髑髏を圧迫している、とのことでした。

さっそく、天皇が晴明に教えられた場所に人を派遣して髑髏を取り出すと、頭痛は快癒したと言います。

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菊池容斎・画『前賢故実』、安倍晴明(Wikipediaより)

また『大鏡』にある話では、彼は花山天皇が寛和の変で譲位に追い込まれることを占星術で予見したりしています。

天皇が藤原兼家・道兼父子にだまされて出家させられた時、天皇が晴明の家の前を通ると晴明がパチパチと激しく手を打ちました。

そして晴明は「天皇が退位されるようだ」と言い、「まずは式神ひとり、宮中へ参上せよ」と命じましたた。すると、見えない何者かが戸を押し開けたといいます。この何者かが、陰陽師が呪術や呪法を行う際に使役した式神だったとされています。



■式神の力

エンタメの世界で安倍晴明の名前になじんだ人なら、陰陽師と言えば「式神」を真っ先に思い浮かべることでしょう。こうした式神にまつわる話は『今昔物語集』にもあります。

ある日、晴明が若い公家や僧侶たちと雑談していると、式神を使って人を殺せるかと聞く者がいました。
晴明は「簡単には殺せません。虫などはたやすく殺せますが、罪になる無益なことです」と答えた。

すると、公家らは「庭の蛙を殺してみせてほしい」としきりにせがみました。

仕方なく、晴明が草の葉を取って呪文を唱えて蛙に向かって放つと、葉が蛙の上に乗り、蛙はペしゃんこに潰れてしまいました。

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晴明神社(京都市)

まだあります。『宇治拾遺物語』によると、藤原道長は毎日法成寺を参拝していましたが、ある日、門を入ろうとするとお供の白犬が吠えたり裾をかんだりして妨害しました。

そこで晴明が占うと、道長を呪った呪物が道に埋まっていることが分かり、掘ってみると朱文字が書かれた土器が出てきたのです。

晴明は「これは道摩法師がしたことかも知れません」といって、懐から取り出した紙を白鷺の姿に変えて飛び立たせました。

召使いが白鷺の後を追っていくと、白鷺は道摩法師の家に落ち、法師は捕えられたのです。道摩法師は呪詛したことを告白しました。

これだけ見ても人間とは思えないヒーローぶりですが、彼は決して架空の人物ではなく、実在していました。

【後編】では、そんな安倍晴明の実像について詳しく見ていきましょう。


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参考資料:
歴史探求楽会・編『源氏物語と紫式部ドラマが10倍楽しくなる本』(プレジデント社・2023年)
日本歴史楽会『あなたの歴史知識はもう古い!変わる日本史』(宝島社・2014年)

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