江戸時代には、驚くことに夫のために切腹した女性がいました。

その人物は浅野吉長の妻である節姫です。
果たして、節姫が切腹を覚悟した理由は一体何だったのでしょうか。

今回は吉長と節姫を紹介しつつ、節姫が切腹するに至った理由とその後を合わせてご紹介します。

■尾張徳川家の血を引く浅野吉長

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吉長の義父・徳川光友/Wikipediaより

天和元年(1681)、安芸国広島藩4代藩主・浅野綱長の長男として吉長は誕生します。母は尾張藩主の徳川光友の娘・貴姫で、由緒正しい生まれの人物であることがわかります。

元禄元年には四位下・備後守に任ぜられ、徳川綱吉と父の綱長から一文字ずつ貰い受け、吉長と名乗りました。

そして、宝永5年(1708)の3月26日に家督を継ぎました。ちなみに、吉長が家督を継いだ数日後の4月1日に綱長は病死しています。

■江戸七賢人の一人に数えられた

広島藩の5代藩主となった吉長は、自らで藩政を行うために最初に大規模な人事を実施しました。その対象となったのが浅野家に仕えた3人の家老で、宝永6年(1709)に吉長はその3人を実務から外します。

そして、今まで無かった藩役人の仕事場である御用屋敷と御用達書を設置し、職場改善を図りました。

加えて、正徳2年(1712)に代官制を廃止して豪農を役人として取り立てたことで、農村支配の強化を図りつつも年貢の増徴を実施しました。

しかし、享保3年(1718)に享保の農民一揆が勃発。
広島藩も一揆の影響を受け、農村支配の強化は断念せざるを得ませんでした。

この他にも享保10年(1725)に藩政のための人材育成を目的として、藩校の講学所を創設しました。吉長は藩校を通して文武両道を奨励し、本格的な武士教育を展開します。

このような藩政改革が失敗もありながらも成功を収めたことから、吉長は「江戸七賢人」の一人として数えられると共に、広島藩中興の英主と呼ばれました。

■節姫と吉長の仲は良好だった

身命を賭してまで…江戸時代、広島藩5代藩主・浅野吉長の愚行に妻・節姫は切腹、その理由とは?


節姫の父・前田綱紀/Wikipediaより

一方の節姫は加賀藩4代藩主の前田綱紀の次女で、薙刀や乗馬が得意の男勝りな女性でした。

吉長の元には19歳となる元禄12年(1699)に嫁ぎ、後に広島藩6代藩主となる浅野宗恒(むねつね)を生んでいます。

また、節姫は気遣いできる性格でこのようなエピソードが残っています。

節姫は吉長に嫁いだ際に、吉長の周囲に児小姓(元服前の小姓)たちがいないことに気がつきました。

理由を尋ねると、男色の対象となる児小姓が新郎である吉長の周囲にいると、節姫とその実家の前田家に悪い印象を与えてしまうから全員他所に出したということを聞き出します。

これに節姫は「そのような気遣いは私に不要です。大名には児小姓が必要ということも理解しています。」と言って、浅野家家中から美少年を自ら選んで吉長の児小姓にしたそうです。

このことからわかるように節姫は吉長に理解を示しており、良い夫婦関係を築いていました。


■吉長の行いに命を賭して諌めた節姫

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しかしながら、当の吉長は節姫の態度に甘えてしまい、50歳を過ぎた頃に吉原の遊郭に通い始めます。それだけではなく、気に入った遊女2人と陰間2人の4人を身請して、一緒に領国に帰ろうとする始末。

吉長の行動に節姫は、「身請けするのは構いません。しかし、その者らを連れて帰国するのは非常識にほかなりませんので、お止めください。」と諌めます。

節姫にとって、遊女や陰間のような出自が不明な者たちを同伴させるのはあり得ないと考えていたことでしょう。

そんな節姫の説得虚しく、吉長は遊女と陰間に美しい装いをさせ、帰国の一行に同伴させました。

これを知った節姫は、遺書をしたためた後、侍女に解釈を任せて切腹。

51歳となる享保15年(1730)に、自らの死を持って吉長を諌めることを選びました。

■死を知った吉長は節姫を厚く弔った

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節姫の墓所がある東京都港区の青松寺/Wikipediaより

節姫の自害を知った吉長は、節姫を丁重に弔い、愛妾としていた遊女たちを遠ざけました。

そして、節姫の弟で加賀藩5代藩主の前田吉徳(よしのり)に相談し、節姫は急病で亡くなったこととして幕府に報告します。

これにより、広島藩の改易と減法は避けられたのですが、非常に後味が悪いのは言うまでもありません。

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