かつては美貌と才覚をもって知られた彼女ですが、その嫉妬深さと嫌味っぷりから次第に夫から疎まれ、時姫との格差が開いていきました。
そんな中、兼家が新たな女「町小路(まちのこうじ)」に入れ込み始めます。
このままでは、ますます自分の立場が危うくなっていくばかり。今回は道綱母がとった対策を紹介。果たして上手く行ったのでしょうか。
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■時姫との共同戦線を画策するが……。

時姫に接近した道綱母だったが……(イメージ)
まず道綱母は時姫に対して手紙を送りました。
「近ごろ『私の夫』があなたのところへ寄りつかなくなったと聞きました。お寂しい心中をお察しいたします。まったく、一体どこをほっつき歩いているのでしょうね(意訳)」
そこへさへ かるといふなる 真菰草(まこもぐさ)兼家を水草に喩えて、自分たちという水底に根を張ってくれない腹立たしさを共感してみせる作戦です。
いかなる沢へ ねをやどるらむ
【意訳】水の底まで根をのばす(かける)という真菰草は、どんな激流に押し流されたのでしょうね。
これで共同戦線を張って、共に「町小路」を追い出そう……そんな計画を立てたものの、時姫はお見通しでした。
「あら。『あの人』はてっきり貴女のところへ根を張っているのかと……となると、どこへ行ったのでしょうね?(意訳)」
まぁいつもの事だし、ほっとけばその内帰って来るでしょう……時姫が余裕の素振りを見せます。
これはつまり「貴女とつるむつもりはありません。どうして私が貴女と同格にならなくてはいけないの?」という意思表示に他なりません。
格の違いを見せつけられて、道綱母はさぞ悔しがったことでしょう。
■町小路の不幸を喜ぶ道綱母

兼家の男児を出産した町小路(イメージ)
そんなこんなしている内に、町小路が妊娠したという報せが耳に入りました。
兼家は彼女のために新居を用意してやり、牛車に同乗して道綱母が住む邸の前を通り過ぎます。妻として、これほどの侮辱ほありません。
「悔しい!あの女、〇ねばいいのにっ!」
地団駄を踏んでいる内に町小路は男児を出産。これで彼女の地位はますます磐石になるかと思いきや、そこが男の勝手なところ。
恋人から母親になってしまった町小路から興味を失った兼家は、次第に足が遠のいたと言うのです。
これを聞いた道綱母の喜びようと言ったら……。
「ホーホッホッホ、ザマァご覧あそばせ!私が今まで苦しんで来たように、悶えのたうち回るがよいわ!(意訳)」
町小路が飽きられたからと言って、自分の立場が向上する訳でもないのに……。
そうこうしていると、翌年には町小路の生んだ男児が夭折してしまいました。
同じ母親として、流石にちょっと気の毒かも……と思うとでも思ったか!道綱母の筆鋒は、その鋭さを増すばかりです。
「今までちょっとチヤホヤされたからって、調子に乗りすぎなのよ!あぁ~、せいせいするわぁ~っ!(意訳)」
という道綱母の胸中が彼女の『蜻蛉日記』に記されています。
何とまぁ陰湿な……そんなんだから兼家に嫌われたんじゃなかろうか……そう思わずにはいられません。
■終わりに
その後も道綱母は、やれ危篤だの出家するだの騒ぎ立て、兼家の気を惹こうと必死でした。
……しかし迫真の演技も虚しく、決定的な復縁を見ないまま二人は離婚してしまいます。
NHK大河ドラマ「光る君へ」で道綱母が初登場した時点では、既に二人は夫婦関係にありませんでした。
※しきりに我が子の藤原道綱(上地雄輔)を推していたのは、ドラマの演出です。
いつか『蜻蛉日記』を実写化したら、一定層に人気が出そうな気もしますね!
※参考文献:
- 河合敦『平安の文豪』ポプラ社、2023年11月
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan