藪漕ぎの登山道(フォトACより)
■バリエーションルートの「バリ」なんです。
バリエーションルートとは、ざっくりいうと、一般的な登山道ではない道のこと。
普通は地図上に記されている「登山道」を歩くことが多いですが、沢登りや岩登り(ロッククライミング)、雪山など、「登山道をトレースしない山歩き」をする人が使うルートのことです。このルートは、その場所によって形態は様々ですが、山でしたら藪こぎを、沢登りでしたら滝の横の岸壁を上るなど、自分で方角や安全を確認しながら進む道をみつけていきます。
いずれにしても、出発地点と最終目的地が決まっていれば、人は通りやすい場所を選んで歩くので、獣道程度には踏み跡が残されているケースがほとんどです。なので、バリエーションルートは完全に環境を破壊しながら開拓していく、という大がかりなものではなく「その筋の人が使う玄人向きの道」といえます。
こういった場所に分け入っていくのは、「幸福追求権」という、国民の権利の範囲に該当します。自然を享受するために好きな場所へ行ける権利です。しかし、じゃあどこにでも入っていって、どこの笹藪を切ったり踏み歩いていいの?という疑問もあるでしょう。
この間、「閉山と開山の意味」という記事を書きました。そこでは開山と閉山は宗教的儀式と一種の区切りであって、昔の慣習に倣ったものであり法的根拠はないと書きました。なので山小屋の営業終了後でも、登山をするために山に入るのは法律違反にはなりません(一部例外はあります)。では現在、登山で法律的に規制される行為を改めて書こうと思います。
おおまかに、「所有者が誰か」によって区分されます。
①国立公園…国立公園では木の伐採、自然の採取など行ってはいけません。また、建築に当たる工作物の設営はNGです。テントは工作物にあたるので、テントは山小屋が管理する幕営地でしか張ってはいけないことになっています(なので、登山道の脇にシュラフにくるまって寝る行為はOK)。
しかし緊急避難といって、テントを張らないと命の危険がある場合には、その場でテントを張るのは黙認されます。突然の大雨や雹、低体温症や疲れによる行動不能、怪我などの不測の事態ですね。
また、積雪時はふだん保護している植物でも雪の下にあるため、「植生を傷めない」という理由でテントを張っても咎められません。

積雪時の登山道(筆者撮影)
②自然公園の特別保護地区や特別地域…国立公園より保護レベルの低いこういった場所でも、植物の採取が制限されており、違反すれば罰則があります。ちなみに登山中に知り合った方から、「展望を良くするために山頂の山の枝を切ったら、都から訴えられて30万円払った人がいる」という又聞きした話を耳にしました。真偽のほどはわかりませんが、出来心で植生を傷つけるのはやめましょう・・・。
③私有地や法人などが所有している山…登山道に立ち入り禁止を掲げていれば不法侵入となり入ってはいけません。土地所有者が植物やきのこ、山菜などの採取の禁止を明示していれば、採取は違法となります。
■登山道が無ければ作ればいいじゃない…大名登山の大倉喜八郎
実は日本で有名なアルプスの一つ、リニア問題でゆれている「南アルプス」はその大部分が特種東海製紙という会社の所有地となっています。
この山域の「赤石岳」の登山道は、かつての創業者・大倉喜八郎が88歳の時(大正18年)、「自分の所有地の一番高いところに登りたい」という鶴の一声で切り開かれました。約200人の人足を引き連れて、駕籠に担がれて。この登山にかかった経費は四万円、当時の価値では1億円以上といわれています。
ちなみにこの登山道はその後登山者のために開かれて、山小屋などが運営されています。
■で、バリエーションルートって法律違反なの?
前述の③の私有地以外で、所有者が明確に立ち入り禁止を明示していなければ、登山をするのは問題なく、自治体などの管理側はバリエーションルートを歩くことを禁止していないことが多いです。なぜなら、環境への影響が少ないからです。
一般的な「登山道」の存在は、大勢の登山者がそこを歩くことで、植生や環境破壊につながらないようにしているわけです。しかしバリエーションルートは場所によっては月に数人、下手したら年に数人しか歩かないので、影響がほぼないのです。
もし、バリエーションルートが大人気になり大勢押し掛けるようになれば、それはもう「バリエーション」ではなくなり、所有者や管理者が登山を制限する可能性が出てきます。
踏み跡の薄い登山道や沢登りをするのは自由ではあるが、あくまで自己責任。自分の糞尿は簡易トイレキットなどで用を足し、持ち帰るのがマナーです。
とはいえ、驚くことに、日本では「登山道の管理者不明」が多いのが実情なんです。そういった場所では、自治体に問い合わせても曖昧な返答が多いのですが、とりあえず登山する前は、そこがどこの所有地なのかは確認した方がいいでしょう。
ここにあげた例が全てではないですが、国土の7割が森林の日本。意外とグレーゾーンなことが多いのです。
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