■地味だけど優秀

武士の武器といえば刀か槍が思い浮かぶと思いますが、戦場でどちらが役に立ったかといえば、圧倒的に槍のほうです。

実は日本刀より圧倒的に優秀だった「槍」!戦国時代、武士の戦闘...の画像はこちら >>


本多忠勝小牧山軍功図 水野年方 画(高知市民図書館より)

時代劇では、武士はよく刀をふるって戦っていますが、現実の戦場で刀はあまり役に立ちませんでした。


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まず相手が鎧で身を守っているため、刀でバッタバッタと斬り倒すのは不可能だったのです。それに何人か斬ると、すぐに刃こぼれして使い物にならなくなります。

また、刀と槍で戦うとしても、槍の方がリーチが長いので有利なのは明らかでしょう。

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加藤清正が虎退治で用いたと伝わる片鎌槍(Wikipediaより)

槍は、合戦では実に用途の広い武器でした。相手を突き刺す・足を払う・長さと遠心力を利用して殴りつけるなどが可能だったのです。頭を叩かれれば、それは致命傷にもなりました。

近年、ゲームの影響などで日本刀がクローズアップされがちです。確かに日本刀そのものや、刀を構えている武士の姿は美しく絵になるので人気を得るのももっともです。

しかし、武器としては地味に感じられる槍の方が、その歴史は長く、なにせ弥生時代から使われていました。

農業が発達して富の蓄積と貧富の差が発生し、初めて集落同士の争いが起きるようになったそんな時代に、いち早く採用された武器が槍や矛だったのです。

■槍の歴史

藤原氏初期の歴史が書かれた伝記『藤氏家伝』には、宴会の席で酔った天武天皇が床に槍を刺したという記述がありますが、この時期の主力武器は矛・盾・弓でした。

時代が下って鎌倉時代になると、薙ぎ払うことに特化した長柄の武器・薙刀や太刀が主力武器として採用されるようになりました。


それまで主に使用されてきた矛は一時的に姿を消したのです。そのあと、槍が再び戦場で活躍するのは安土桃山時代になってからです。

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槍を携える山中幸盛(月岡芳年画・Wikipediaより)

戦闘形式が騎馬戦から徒歩戦、個人戦から集団戦へと移行したことで、薙刀よりも槍の方が有用だということで広く普及することになりました。

江戸時代には、槍は大名の格式を表す道具と見なされるようになり、武術のひとつである槍術も発達。各地で様々な流派が生み出されます。

■戦闘スタイルの変貌

槍の利点は、先に述べた通りそのリーチの長さと間合いの広さ、そして用途の幅広さです。

「長いと使いにくいんじゃない?」と思われるかも知れませんが、柄を持つ位置を短くすることで近接戦闘にも対応できました。

また槍は、特に集団戦に適していました。集団戦法が中心となった戦国時代には、槍集団が槍をズラリと前面に並べて槍ぶすまを作り、騎馬武者の突撃を阻止するという戦法が採用されています。

単純な突撃では槍ぶすまを破れなくなったことから、鉄砲という飛び道具が必要になったという事情もありました。

戦国時代は銃が発達して、武士の戦闘スタイルも大きく様変わりしました。しかしその大きなきっかけのひとつが、最も古い武器「槍」だったというのは面白いですね。


実は日本刀より圧倒的に優秀だった「槍」!戦国時代、武士の戦闘スタイルを変貌させるきっかけにも


愛知県岡崎市の本田忠勝像

当時の槍部隊の重要性は、上杉軍の編成を見ると理解できます。なんと槍部隊は全体の三分の二を占め、刀中心の遊軍は全体の一割に過ぎなかったのです。

これは 他の軍勢の構成も似たりよったりで、槍こそ合戦の主力兵器だったことが分かるでしょう。

また、戦闘以外でも槍を二本並べて物品や人を運搬したり、複数の槍を使って壁を作ったり、所帯じみた使い方としては物干し竿代わりにするなどの用途もありました。

さすがに物干し竿までいくと「本当にその使い方でいいの?」という感じもしますが、とにかく使い道は無限だったのです。

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参考資料:歴史の謎研究会『舞台裏から歴史を読む雑学で日本全史』2022年、株式会社青春出版社
画像:photoAC,Wikipedia

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