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天下御免の吉原で下級遊女が困窮しているのは、無許可で風俗営業をおこなう岡場所や宿場のせいだ……ならば奉行所に警動(けいどう。
がっかり吉原に帰ってくれば、大騒ぎを起こした罰で桶伏の刑に。暗闇の中で三日三晩、吉原復興の妙策を考え抜いた蔦重。今度は何をしでかすのでしょうか。

大河ドラマ「べらぼう」公式サイトより
……さぁ始まりました。令和7年(2025年)NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦屋栄華乃夢噺~」、皆さんも楽しみにしていましたか?していましたよね?
正義感に突っ走る粗削りな若者が「江戸のメディア王」となるまでを描く本作。これから一年間、楽しんでまいりましょう!
■蔦屋重三郎の出自について

蔦屋重三郎(画像:Wikipedia)
本作では両親から捨てられ、駿河屋市右衛門(高橋克実)に拾われた設定となっている蔦重。
蔦屋重三郎の出自については諸説あり、寛延3年(1750年)1月7日に生まれました。
父親は尾張の丸山重助(まるやま じゅうすけ)、母親は江戸の広瀬津与(ひろせ つよ)とされています。
両親の家業は不明ですが、吉原に何か関係していたのではないでしょうか。
幼名は柯理(からまる)、7歳となった宝暦7年(1756年)に喜多川家(蔦屋)の養子に出されました。
- 養父:駿河屋市右衛門(高橋克実)
- 養母:ふじ(飯島直子)
- 義兄:蔦屋次郎兵衛(中村蒼。市右衛門の実子)
ひとまずはこの顔ぶれが蔦重の家族と言えるでしょう。
■語りの九郎助稲荷(綾瀬はるか)

九郎助稲荷の位置(画像:Wikipedia)
冒頭「明和九年の大火」で、蔦重がお社を担いで逃げていた九郎助稲荷(くろすけいなり)。人の姿でも影が狐と芸が細かくていいですね。
※狐を御歯黒溝(おはぐろどぶ)に沈めたのなら、お社も(石でも載せて)沈めれば楽だったろうに……と思いました。
その後、本作の語り部として登場し、何と説明のためにスマホまで取り出します。時代考証としては完全アウトでしょうが、神様だから許して下さい。
経路検索のアイコンが徒歩や駕籠(かご)、馬になっているなど、凝っていましたね。
この九郎助稲荷、かつて千葉九郎助という者が天から降臨した狐を祀った「田畔稲荷(たのあぜいなり)」が始まりと言われます。
吉原の大門から入って一番左奥に鎮座しており、これからも物語の各所で解説を入れてくれることでしょう。
■女性たちの怖い?化粧

鉄漿をつける女性。歌川国貞筆(画像:Wikipedia)
戦のない泰平の世に慣れ、庶民たちも化粧が身近となった江戸時代。
結構なことと思いきや、女性たちの化粧は、現代からするとなかなか異様なものでした。
結婚した女性は眉毛を剃り落とし、鉄漿(おはぐろ)で歯を黒く染めます。
黒は何色にも染まらないことから貞節の象徴とされ、また大口を開けて話したり笑ったり(はしたない事を)しない戒めともなりました。
合わせて眉毛を剃ることで顔が怖くなり、間男防止の効果もあったでしょうか。
ちなみに未婚のまま年齢を重ねた女性も、体裁が悪いため眉毛を剃ったり歯を染めたりしたそうです。
こうした化粧は自身の面相がかなり変わってしまうため、女性たち自身も少なからず抵抗のあるものでした。
だから中には眉を描く女性もいたそうです。
おしそうに むすめひたいを 二ッなで【意訳】眉毛を剃り落とすのが嫌で、娘が額の二箇所を撫でる。
※『誹風柳多留』
恥かしさ ぐわらり(がらり)と相(そう)がかハる(変わる)也【意訳】化粧でがらりと面相が変わってしまうため、恥ずかしくてしょうがない。
※『初代川柳選句集』
演じている女優さんがたも、なかなか大変なことと思います。
■今週のトライ&エラー・蔦重メディア王への道

蔦重の目を覚まさせた?田沼意次。実際あんな簡単に会える存在ではないが、ドラマなのでご容赦を(画像:Wikipedia)
蔦重「吉原では下層の遊女が困窮している!これは無許可営業の岡場所や宿場が客を奪っているせいだ!ただちに警動を!」
田沼「そなたの主張は確かに正論だが、その社会的な影響を考えたことはあるか?」
蔦重「む」
田沼「お前は、吉原に客を呼び込む努力を何かしているのか?」
蔦重「むむ」
田沼「そもそも吉原の上層部が私服を肥やしているのをまずは正すべきではないか?」
蔦重「むむむ……」
とりあえず、田沼意次とのやりとりは、ざっくりこんな感じでした。
また「悪役」とされた忘八たちにも、それぞれの事情や利害、既得権益があります。
社会をよくしていくためには、清濁併せ呑みながら、じわじわ粘り強く進めていく必要性を学んだのではないでしょうか。
単純に善悪だけで色分けしないところに、本作の味わい深さが期待できそうです。
これからも蔦重は全力でトライ&エラーを繰り返しながら、大きく成長していくことでしょう。
■腰が辛そう!蔦屋重三郎が受けていた桶伏の刑とは
田沼意次に諭され、がっくり帰ってきた蔦重を待ち構えていたのは駿河屋たちの私刑でした。
フルボッコにされた挙げ句、風呂桶をかぶせられて三日三晩閉じ込められます。
これは桶伏(おけぶせ)と言い、揚げ代(遊郭の料金)を払えない客などに行われました。
他にも馴染みの遊女がいるにもかかわらず、浮気した客にも科されたそうです。
※吉原って、お金さえ出せば何でも好きに出来る訳ではありませんでした。客と遊女は擬似的な婚姻関係が演じられるのですが、詳細は割愛します。

『奇想凡想』より、桶伏の様子。
さて。もしあなたが運悪く桶伏の刑に処されたら、どんな生活を送ることになるのか想定してみましょう。
飲食料は最低限、餓死しない程度に与えられます。死なれても迷惑ですからね。
冷暖房?ある訳ありません。なんせ罰ですから。
トイレ?中でして下さい。匂い?知ったこっちゃありません。なんせ罰ですから。
風呂?ある訳ないでしょう。全身にノミやシラミがたかろうが以下同文。
立ち上がれるほどの天井高さがないので、地べたに座るか寝そべるかのどっちかしかできません。
布団?そんなのあるわけ以下同文です。手足をのばして眠れるなんて思わないで下さい。
また用足しには地面の傾斜に注意した方がいいでしょう。不用意に上からしてしまうと、下まで濡れることになります。
夏なんかはハエやら何やら湧きたかって、地獄絵図(暗くてよく見えないと思いますが)が繰り広げられることでしょう。
こんな暮らしがいつまで続くかと言えば、揚げ代を払うか当局の気が済むまでです。
払えるあてがあるなら、早く払ってしまう(そもそもちゃんとお金を持って遊びに行く)ことをお勧めします。
伴頭が 来て桶伏の のびをさせこんな川柳があるそうで、ようやく解放されて身体をのばす気持ちよさが詠まれました。
■第2回放送「吉原細見『嗚呼御江戸』」

初期の吉原細見。お店がびっしり(画像:Wikipedia)
読みは「よしわらさいけん・あぁおえど」。
吉原細見とは、吉原で遊ぶ時のガイドブック。
蔦重はこれに目をつけ、宣伝広報によって吉原に客を呼び込もうとするのでした。
でも、どうやって?そこに蔦重の創意工夫が働くのです。
夢を叶えるため東奔西走、蔦重が出版界に飛び込み、開花していくプロセスがイキイキと描かれることでしょう。
合戦なんかなくたって、誰でも天下に志を立てて、誰かのため魅力的な人生を駆け抜けることができる。
蔦屋重三郎の生涯から、そんな意志と勇気を感じられる一年になったら嬉しいです。
どうか今後とも、ご贔屓に願います!
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan