吉原遊郭にはお客様に“非日常の愉しみ”を提供するにあたって、様々なしきたりがありましたが、変わっているのが様々な駆け引きでした。ここでは、お客人のアタックとそれに応じる遊女の多彩なる駆け引きの数々を紹介していきます。


■四角い卵と遊女の誠の意味って?

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江戸名所 吉原仲の町桜時(歌川広重 画)

吉原を始めとした遊里を端的に表現した言葉として名高いのが、『四角な卵と遊女の誠、あれば晦日に月が出る』と言うものがあります。これはどのような意味かと言うと、いずれも四角い卵と月末に出る月はあり得ないもの、それと並んで遊女の誠意はあるはずがないと揶揄しているのです。

つまり、遊女は嘘つきだらけであって、客人たる男性もまた騙されるのを覚悟で遊びに行きましょうね…と言うのが、遊里における粋と言う物でした。そうした殿方の粋な心をいかに引きだすかと、軍師さながらに策を練るのが遊女の手練手管です。

■嘘泣きは当たり前!遊女の切り札“心中”とは?

嘘泣き、断髪、爪剥がし!?吉原遊郭の恒例、遊女とお客の駆け引きバトルは凄まじい


遊女にはミョウバンを着物に染み込ませて顔をこすり、涙を流して見せる“女郎のそら涙”つまり嘘泣きを中心に、客人を篭絡するための様々な策略がありますが、その最もたる物が『心中』です。

一般的に心中と言えば自害・自殺行為を連想させますが、遊里での心中は心中立とも言って客人に対して真心を示す遊女の行動を意味していました。
心中は大きく分けて6種類の行為があり、本項ではそのうちから、『断髪』と『放爪(ほうそう)』を紹介していきます。

1つ目の断髪は文字通り髪を斬ることで、今でも引退した力士の方達が大銀杏を切り落としていますが、遊里では髪の毛の一部を渡すだけでした。しかし、殆どは髪にボリュームを持たせる『かもじ』であったり、他の人から入手した物が多く、客人から直接切って貰うこともありましたが、これは少数派でした。

続いての放爪は指から爪を取って渡し、思いの丈を訴えるものです。爪が剥げたり割れたりするのは痛いですので、その痛みを誓いの印としたのでしょう。爪の周りを切り回したり、痛み止めとして酢に浸すなど、色々な工夫が凝らされていました。


しかし、これにも抜け道があり、妹分に頼んで彼女の小指の爪を伸ばさせ、それを切って何食わぬ顔で渡したり、『好色一代男』のように死人から抜いた爪を商う業者から買うなどの計略がありました。

これらの事例は、まさしく『遊女の誠』はあり得ないのが常識だったことを如実に示していますね。

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