■お参りは旅行気分。さて、どこに行く?

江戸っ子たちにとって、神仏を拝みに行く参詣は観光旅行のようなもの。
道中の景色や名物を楽しみつつ、目的地に向かってひたすら歩き続けます。1日10里(約39㎞)は歩くので、体力も時間もそれなりに要しました。近いところでも2、3日はかかります。では、どんなところに参詣していたのでしょうか?

一番の人気は、伊勢詣です。江戸時代には、4回(1650年・1705年・1771年・1830年)にわたり爆発的な伊勢参詣ブームが起きたほどの人気ぶりでした。これらの年は10人に1人の日本人が伊勢詣をしたそうです。ちなみに、徒歩で江戸日本橋から伊勢に向かうとなると、往復で1ヶ月はかかります。

このほかにも、古代から信仰されてきた熊野詣、弘法大師空海が眠る高野山に参詣する高野詣、三大弁財天の一つである江ノ島弁天に詣でる江ノ島詣、富士山頂上でのご来光を目指す富士詣など色々ありました。富士詣の場合登山をしなくてはいけないので、体が弱い人は行けず。その代わり、江戸の町にある富士塚(高さ数mの築山)に参詣して気分を味わっていたようです。

■旅姿はどんなもの?

男女共に風呂敷包みをしょいこみ、菅笠をかぶり、足袋やわらじを履きます。そして、動きやすさを重視し、男性は着物の尻をはしょり、女性は浴衣の上から腰ひもでしめます。
道中、物騒なことがあっては大変ということで、旅の町人は特別に帯刀を差すことも許されていたそう。

江戸時代、観光旅行のように楽しんだ参詣。「伊勢参り」はやっぱ...の画像はこちら >>


「隷書東海道五十三次 四十四 四日市 日永村追分 参宮道」歌川広重

■これだけは持っていきたい、旅に必須の持ち物

一番大事なものは、往来手形と関所手形です。往来手形は、旅行中の身分証明書のようなもの。いわばパスポートですね。これを名主と菩提寺の住職に書いてもらいます。もう一つの関所手形は関所の通行許可書ですが、これは女性のみ必要とされました。

一日じゅう歩くとなれば、提灯や雨具も必要です。火打石道具、ろうそく、弁当箱、衣類や風呂敷、はな紙や薬なども要りますね。長旅では、大金も必要になります。胴巻きに入れて身体にまきつけたり、財布に紐を通して首から下げて懐にしまうなど、まるで海外旅行に行ったときのパスポートのようです。

現代の旅行ではあまり持ち歩かないけれど、当時持っていると便利なアイテムといえば綱三筋。これは長さ2間半(約45メートル)のヒモで、荷物をくくったり物を干すときに使いました。
ほかにも、いろんな用途で使えそうですね。

参詣は、江戸の町人たちにとって一大行事だったのです。大変ではあるけれど、その分、楽しみも大きかったのでしょう。

参考文献:大江戸探検隊(2003)『大江戸暮らし』

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