東京都葛飾区にある「堀切菖蒲園」をご存じですか?京成線・堀切菖蒲園駅から徒歩七分程度の場所にあります。今年4月にリニューアルしてバリアフリーも進み、お手洗いも新設され散策しやすくなりました。
昨年も同じ時期に紹介した、江戸の風流を感じる葛飾区の名所です。
今に残る「名所江戸百景」最高にフォトジェニックな東京・堀切の花菖蒲が見ごろ
約200種5000株の菖蒲が所狭しと咲き誇り、しっとりとした紫や白の花が目に涼しげです。名前も風雅で「十二単衣」「星月夜」「御所の遊」、相撲部屋の名跡にもある「立田川」「武蔵川」という名前もあります。
茄子のような藤紫、赤みがかった薄紅、白い花弁にうっすら紫色がしみているようなぼかし、完全に白いものなど数え切れないほど品種がありますが、大きく分けて三つの系統にわかれます。
- 江戸系…堀切で収集改良された品種の総称。集団で植えます。
- 肥後系…後述する旗本の松平左金吾から藩主に渡り改良されたもの。大ぶりで背が低く、鉢植え向き。
- 伊勢系…詳細不明ですが、松阪の吉井定五郎という武士が改良したといわれています。弁の垂れ方が優美。

中でも堀切菖蒲園では「江戸古花」といって江戸時代の品種を咲かせているので見応えがあります。

万里の響(江戸古花)

星月夜(肥後)

武蔵川
■菖蒲に生涯をかけた侍と農民
菖蒲の発展に貢献したのは江戸時代後期の旗本・松平左金吾(1773-1856)。
なかでも自身が絶賛してやまないのは「宇宙(〈おおぞら、うちゅう〉とも)」。手がけた菖蒲は露天で販売するなどせず、噂を聞いて訪れる者には自宅に招き入れ観賞させたそうです。乞われれば株分けをしてくれたそうですが、作出した品種改良方法は長らく門外不出としており、晩年「花菖蒲培養録」に著しました。
その左金吾から品種を譲り受けて培養したのが、同時代に堀切にて菖蒲の栽培にいそしんでいた農家の小高伊左衛門。こちらは日々の稼ぎとして江戸で販売していたそうです。侍と農民、二人を結びつけた詳細はわかりませんが、区の案内板では伊左衛門が左金吾に願い譲り受けたと書いてあります。
堀切で最初の菖蒲園は江戸末期開園の小高園で、明治には武蔵園・吉野園・堀切園・観花園などが開園しましたが、戦中戦後の混乱で荒れ果て、堀切園のみが現在の堀切菖蒲園として残ったとのことです。堀切の花菖蒲は「江戸百景」に数えられ、鈴木春信・安藤広重などの浮世絵にも描かれています。現在すべての園が存続していたら、どんな風景が広がっていたでしょうか。とても美しかったでしょうね。

歌川広重「名所江戸百景」
自らを菖翁と称した左金吾。その菖翁に作出されたものを「菖翁花」と呼び、堀切菖蒲園で観賞できるのは6種類。「蛇籠の波(じゃかごのなみ)」「霓裳羽衣(げいしょううい)」「王昭君(おうしょうくん)」「五湖の遊(ごこのあそび)」「立田川(たつたがわ)」「連城の璧(れんじょうのたま)」です。

江戸の町と浮世絵師も虜にした美しい花を、是非その目でごらんになってください。園の外の遊歩道には紫陽花も群生しており、丁度同じ時期に楽しむことができます。
葛飾菖蒲まつり期間中は同じく菖蒲の名所「水元公園」をつなぐバスが出ておりますので、利用すると便利です。
会期は6月20日まで、拝観無料。
堀切菖蒲園
- 堀切菖蒲園
- 水元公園
- 葛飾区公式サイト内「堀切水辺公園」ページ
- 葛飾区公式サイト内「堀切菖蒲園開花情報」
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