■平安後期物語としてはわりと有名な『とりかへばや物語』

平安貴族の家に生まれた男女きょうだいが、女君は男勝り・男君は引っ込み思案で女の子のように、それぞれ反対の性質を持った子どもとして育った物語。女君は男として官職を得て出世し、男君は女の姿で尚侍として宮仕えをします。


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やがて二人は、女君の性別が宰相中将に露見したことによって本来の性にもどり、それぞれが栄華を極めるという物語です。

男女が性転換して生活?異色の輝きを放つ平安時代の王朝文学「とりかへばや物語」

「平安時代に男装・女装の物語なんて、おもしろい!」という珍しさもあり、平安文学を専門に学んでいなくても結構認知度の高い物語ですよね。『源氏物語』には及ばないとはいえ、あの『君の名は。』のモチーフのひとつにもなったという物語。(あの映画のモチーフとして『とりかへばや物語』が機能しているかどうかは個人的に疑問ですが……)

そんな『とりかへばや物語』と設定がよく似た物語があります。それが『在明の別』。

■『在明の別』は女君ひとりが二役を担う?その役割とは?

『在明の別』(有明の別、有明の別れとも)は、『とりかへばや物語』よりも少し後に成立した物語。時代としては中世王朝物語に分類される作品です。物語評論で知られる『無名草子』にもその名があることから、『無名草子』が書かれるより前、つまり1196~1202年よりも前ということ。『とりかへばや物語』も中世王朝物語に分類されることもありますね。

この物語、左大臣家に生まれたひとりの女君が主人公です。女君は男装して左大臣家の嫡男として社会に出るわけですが、その役割は「左大臣家の後継者となる男児をもうける」ことと、「左大臣家の娘として宮中に上がる」というふたつ。
とてもひとりではなし得ないことのように思えますが、この物語では成し遂げてしまうんです!

■隠れ蓑の術を使って夜な夜な他人の家で覗き!?

男女入れ替え物語の原点・とりかへばや物語に似た「在明の別」前編:誕生から男装まで


「左大臣家の後継者となる男児をもうける」ための飛び道具となるのが「隠れ蓑の術」です。そう、女君は不思議な力が使えるんです。このあたり現実的ではありませんが、物語では天狗や妖術が登場することしばしば。

女君は隠れ蓑の術を使い、夜な夜な出歩いては人の情事を覗き見……誤解のないよう説明しますが、これは理由があってのこと。女君はこの覗き見から、ある妊娠した女性を救って妻とし、その子を家の後継者にします。そういうわけで、無理やりのようにも思えますがひとつめの役目をクリアした女君。

男としての役割を終えた女君は、ふたつめの役割のために動き始めるのです。(後編へ…)

男女入れ替え物語の原点・とりかへばや物語に似た「在明の別」後編:偽死と入内

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