現代では、小さな男の子が泣いていると「男の子なんだから泣かないの」「しっかりしなさい」と叱られた経験がある方も多いのではないでしょうか。こういう叱り方は男女差別にあたるので、あまりいい教育方法とはいえませんが、そういう環境下で育った方も多いでしょう。
そう。「男は涙を見せぬもの」とは、ガンダムの「永遠にアムロ」という名曲の歌詞にもありますが、そういう価値観を持つ人は意外と多いもの。
しかし、「男だから泣いてはいけない」といつから言われるようになったのでしょうか?時代を遡ってみると、意外と泣いてばかりの男も多いことがわかります。
■あの光源氏もよく泣く男
源氏物語絵巻第38帖「鈴虫」
平安時代を代表する物語「源氏物語」の主人公・光源氏もよく涙を流す人物として描かれています。ここで紹介しきれないほどに、光源氏は愛する女性を思っては泣いているのです。
たとえば、「若紫巻」で源氏が長年恋い焦がれてきた藤壺に思いを伝えに来た場面では、
見てもまたあふよまれなる夢の中にやがてまぎるるわが身ともがな「こうして逢えてもまた逢う日はめったにめぐってこないのですから、このまま夢の中にまぎれて消えてしまいたい」と源氏は「むせかへり」つまり涙にむせかえりながら藤壺に訴えているのです。
とむせかへりたまふさまも、さすがにいみじければ……
「源氏物語」(校注・訳:阿部秋生・秋山虔・今井源衛・鈴木日出男「新編日本古典文学全集」/小学館)
涙ながらに藤壺にすがりつき、拒み切れなかった藤壺と思いを遂げるという場面です。
■物語以外でも
そんなに男が泣くのは物語だけだ、と思われるかもしれませんが、ほかにも例はあります。たとえば、「新古今和歌集」にはこのような歌があります。
家に百首歌合し侍りけるに、祈恋といへる 摂政太政大臣恋の祈りがいつまでも叶えられず、「袖に玉散る」つまり袖に涙の玉が散るほど物思いをしているという歌です。
幾夜われ波にしをれて貴舟川袖に玉散るもの思ふらん(恋歌・二・1141)
「新古今和歌集」(校訳・注:峯村文人「新編日本古典文学全集」/小学館)
この歌自体は「歌合」といって、歌の題を持ち寄って優劣を競う場で披露されたものなので、実際の感情というよりはその場で決められたテーマに沿って詠んでいるといえますが、そうであったとしても恋には涙がつきものでした。
男も女も恋で涙を流し袖を濡らす。
恋の場面では、いかに自分の思いが強いかを涙で表現し、歌にも詠みこむ。それが平安時代の「男の涙」です。
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