■お通は作家・吉田栄治の創作だった!
この宮本武蔵の人生で切っても切り離せないのが、ライバルの佐々木小次郎、恋人のお通ではないでしょうか。他にも幼馴染の又八とその母お杉、そして沢庵など「宮本武蔵」の物語には濃い人物がたくさん登場しますが、映画やドラマでもお通はヒロインとして目立つポジションにいますよね。
ところがこのお通、実在しない人物だったと言われているんです!
宮本武蔵を描いた小説としてもっとも古いのが吉田栄治の「宮本武蔵」ですが、この小説こそ後の「宮本武蔵」像に多大な影響を与えた存在。
お通は吉田栄治の創作だったのです。
■お通という女性
『報讐忠孝伝 宮本武蔵』 歌川国芳画
武蔵の恋人として私たちにはなじみ深い存在のお通。剣の道に生きる武蔵を愛し、そして武蔵にも愛された女性です。よくドラマで描かれるのは武蔵を追って旅をするお通の姿。
この二人は最後まで「結ばれた」とは言い難い関係なのですが、愛する武蔵を追いかけるお通はけなげで、この二人の純愛はファンにも人気ですよね。
「この人が実在しないのか」と思うとちょっとショック……。
ですが、それだけ吉田版「宮本武蔵」が人気であり、創作部分含め多くの人に愛された作品だったということです。
ではモデルになった人物はいないのか、というと、「小野お通」という女性がいます。
同じ時期にいた女性で謎が多いのですが、大河ドラマ「真田丸」にも登場しているので「あ~、あの人か!」と思い至る方もいるのでは?しかし、小野お通と武蔵は接点もないようで、武蔵の生涯に関わりはなさそうな人物です。
そもそも実際の武蔵は生涯独身だったとか。
■実は又八も……
そこで気になってくるのが他の登場人物です。ライバルの佐々木小次郎は実在の人物ですが、印象深い幼馴染の本位田又八はこれまた吉田栄治の創作なんだとか。モチーフになったと思われる「本位田氏」はいますが、又八という人物は架空の存在なのです。
こうしてみると、宮本武蔵を題材にしたいろんな作品はキャラクターが濃いので、創作性が強いことがよくわかりますよね。
宮本武蔵は武将でもなく、出自もはっきりとはしない人物です。
だいたい歴史を扱う作品では戦国武将など歴史書に名が残っている人物を題材とすることが多く、関係する人物も名が残っているので、物語はおおよそ史実に沿った形になります。
ところが宮本武蔵に関しては周辺の関係がはっきりせず、そのため架空の人物を複数登場させ、お通という恋人、又八という幼馴染などはっきりとしたキャラクター性を持った人物を登場させたのではないでしょうか。
しかし、今となってはお通や又八のいない「宮本武蔵」の物語なんてちょっと考えられませんよね。
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