『雪女』とは、日本各地でそれぞれ「ユキムスメ」「ユキオナゴ」「雪女郎」「ユキアネサ」「雪オンバ」「雪ンバ」「雪降り婆」などの呼称で知られる空想上の妖怪です。
その姿は「死」を表す白装束を身に付けた美女で、男に冷たい息を吹きかけたり、男の精を吸いつくたりして殺すという、実に恐ろしい妖怪です。
佐脇嵩之『百怪図巻』より「ゆき女」/WIkipediaより
現在のギリシャ出身の作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)による怪奇文学作品集『怪談』に収録された『雪女』の話は、同作品中で最も有名な作品の1つです。
元々『怪談』は、八雲が妻の節子から聞いた日本各地の怪談・奇談・幽霊話などを、八雲独自の解釈も交えて再編成し、まとめたものでしたが、『雪女』のストーリーもまた、各地に伝わる伝説にヒントを得ているといわれています。
そこには「山の『掟』を破った人間に、山の『神』的な存在が罰を下す」という含みがあるのでしょう。
■巳之吉との2度出会った「雪女」
さて、小泉八雲の『雪女』は、「武蔵の国の西多摩郡調布村の百姓が語った話」とのこと。実際にこの地域には似たような民話が伝説として伝わっており、青梅市上長渕の「調布橋」の傍には「雪おんな縁の地」の碑が立てられています。
物語は、老人の樵(きこり)茂作と若い見習い樵の巳之吉が冬のある日、吹雪の山中で帰ることができなくなり、近くの小屋に泊まることにしたところから始まります。
そんな中、小屋の戸を無理矢理開けて「雪女」が現れます。白装束に恐ろしい目をした美女は、茂作に白い煙のような息を吹きかけると、凍死させてしまいました。
「雪女」は巳之吉も同じようにして殺そうとしましたが、なぜか殺さずに、こんな言葉を残して去ります。
「あなたはまだ若いのだから、殺すのは気の毒だと思った。だからあなたは殺さない。しかし今夜起きたことを誰かに言ったら、あなたを殺す」
明け方になってから巳之吉は救出され、回復すると「雪女」については誰にも何も話さないまま、樵の仕事に戻っていきました。
翌年の冬、彼は背が高くほっそりとした色白の美しい少女「お雪」と出会います。
意気投合した2人は結婚し、男女10人の美しい子供たちも生まれ、幸せに暮らしました。
ところがある晩、針仕事をしていたお雪を見つめながら、巳之吉は少年の頃見た「雪女」の話を彼女に語ってしまったのでした。
それを聞いたお雪は、
「それは私、私、私でした。…あなたがそのことを一言でも言ったら、私はあなたを殺すと言いました…」
と叫び、それでも2人の間の子供たちを大切にして欲しい、そうでなければ今度こそあなたを殺しに来るから、と言い残して消えてしまいます。
■人間に天誅を下そうとした山の神が、人間に恋をした?
巳之吉との幸せな日々を一瞬にして終わらせた、お雪こと「雪女」。彼女はいったい何者だったのでしょうか?

物語の最後で消えてしまったお雪を見た者はその後なく、答えは謎に包まれたままです。でも、初めて会った時も巳之吉だけは殺さずに助け、彼が約束を破ったにもかかわらず、またも命を助けた雪女。
もしかしたら、人間に天誅を下そうとした山の神が、人間に一目惚れしてしまった物語だったのかもしれませんね。
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