「悪魔」と聞くと、キリスト教やエクソシストを連想する人が多いかもしれません。
14世紀のヨーロッパで描かれた悪魔
日本では平安後期に編纂された「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」に、「悪魔」の文字が見えます。そもそも「梁塵秘抄」は、後白河法皇によって編纂されたもので、「今様」という平安末期の遊女(あそび)や傀儡子(くぐつ)などの女芸人によって歌われ広められた流行歌が収められたもの。

『梁塵秘抄』を編纂した後白河法皇
この今様は、仏教的な内容を含んでいるものが多いのですが、その中に「不動明王恐ろしや、恐れる姿に剣を持ち、索を下げ、後ろに火焔燃え上るとかやな、前には悪魔寄せじてと降魔(がま)の相」というものがあります。
現代の言葉に直せば、「不動明王は、悪魔を剛腹させる力を持つ、なんとありがたい仏様でしょう」というかんじの意味になりますが、この歌詞に使われている悪魔は、自分自身の心に棲んでいる様々な煩悩のことを示しているのです。

不動明王
ちなみに「魔」という漢字は本来、死者を指し超自然的なものを含意する意符「鬼」と、サンスクリット語の「修行を妨げる者」を意味する「マーラ」の音を表す音符「麻」とを組み合わせたもの。古くは「磨」と書かれていたのを梁の武帝蕭衍以来「魔」と書くようになったとされています。
この「魔」が転じて、日本では、災いをなす原因と想定されるモノを漠然と擬人的に「悪魔」と呼ぶようになりました。梁塵秘抄に出てくる「悪魔」という言葉は、日本人のこのような悪魔の使い方の起源をたるうえでも興味深い史料でもあります。
親しみやすい「悪魔」が、今後も日本人のポップカルチャーのなかで作られていくことを大いに期待したいところですね。
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